日本語のあれこれ日記【79】

日本語と漢字―その22―形容動詞が気になる

[2026/3/18]アップロード


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形容動詞が気になる

あるきっかけによって、形容動詞というものが気になるようになりました。

形容動詞を認めるか、認めないか、という問題もありますが、そのほかにも調べてみると、いろいろな疑問が出てきて、収拾がつかない状態になってきました。

そこで、何も結論が出ないまま、現状を整理しておこうと思い、この記事を書くものです。


なお、形容動詞を認めるか、認めないか、という問題については、決して確信するまでには至っていませんが、さしあたって形容動詞を認める立場に立って考えていくことにします。

形容動詞を探す

まずは形容動詞とは具体的にどのようなものがあるかが前提です。

つまり、形容動詞をリストアップし、何かの特性、あるいは傾向がないかどうかを調べようと思ったのです。

このとき、形容動詞である言葉は、それほど多くはないだろう、という印象を持っていたのです。

ところが、調べてみると、とても多いのです。

言い切り型が"だ"で終わり、語尾が活用するというところから、思いつくままに、"偉大だ"、"健康だ"、"異常だ"、"豪快だ"などと、並べ立てていきました。

次から次へと出てくるのです。

和語では、"・・・・やか"、"・・・・らか"など、特定の接尾語を持つ言葉が沢山あり、形容動詞とされます。"おだやかだ"、"明らかだ"のたぐいはとても多いと言うことは容易に想像できます。

中国語で言うと、"・・・・的だ"というものがあります。これも相当の数がありそうです。"積極的だ"、"感情的だ"、"感傷的だ"などと、どんどん出てきます。

ネット上でなにか公開されている情報はないかと探してみると、ありました。

野呂幾久子 日本語教育における「形容動詞」の取扱いに関する一考察 静岡大学教育学部研究報告 第25号(1994.3) pp.1~12

この論文の本題は、外国人への日本語教育に関するものですが、その中に、初級日本語教科書に取り入れられた形容動詞がリストアップされています。その数は110。"ドライだ"、"ハンサムだ"という英語由来の言葉が含まれていたのは予想外でした。

それに、私が収集したものほ加えてリストを作りました。

いろいろなタイミングで、新たな形容動詞の言葉に気づき、その都度追加していきますので、その数はどんどん増えていきます。

以下、私が気になることを挙げていきます。

名詞+断定の助動詞"だ"と考えにくいもの

形容動詞を認めない立場に立てば、それは名詞に断定の助動詞"だ"が付いたものと理解します。

では、次のようなものはどうでしょうか。

・いろいろだの"いろいろ"

・同じだの"同じ"

・主だの"主(オモ)"

・盛んだの"盛ん"

・静かだの"静か"

・甚大だの"甚大"

・こんなだ、そんなだの"こんな"、"そんな"

"同じ"については、「同じが」とか「同じを」という表現が考えつきません。ですから、名詞とは考えにくいです。

"静か"はどうでしょうか。例えば「静かがその場を支配していた。」とは言いにくいと感じます。"静かさ"なら可能です。もっともその場合は"静けさ"の方がよりフィットします。(備考1)

こんなだ、そんなだの"こんな"、"そんな"は名詞とは考えにくいのですが、形容動詞を認めない立場では、おそらく、"こんな○○"、"そんな○○"は連体詞になり、"こんなに"、"そんなに"は副詞になるのではないかと思います。

例えば、"無駄だ"を取り上げれば、名詞として"無駄"は、「無駄を承知で」、「無駄をできるだけ減らすことが大事」などということができ、名詞であることは確かです。

"同じだ"は特殊なケースで、"同じ"という形容詞もあり、注意が必要です。


"急だ"では「急を要する」などと言えますから、形容動詞であるとは言えなさそうです。"急に"、"急な"はよく使われるので、名詞・形容動詞という扱いになるでしょう。

形容動詞の微妙な面

ちょっと考えただけでも、微妙なところがあります。

もっとも、もともと日本語は自然言語です。口語の言葉はどんどん変化していくので、それを体系づけしようとすると、いろいろと微妙なところが出てくるのは仕方がないでしょう。

その典型的なもの一つが形容動詞と考えていいでしょう。

名詞・形容動詞型と単純な形容動詞型

例えば"健康"は形容動詞でもあり、名詞でもあります。

「毎日を健康に過ごす」なら形容動詞、「何より健康が第一だ」では名詞です。

"堂々"は「堂々と行進する」では形容動詞ですが、名詞としての使い方はなさそうです。

"不得手"という意味の"苦手"は、精選日本語大辞典では名詞だけですが、新潮国語辞典、現代例解では名詞・形容動詞という扱いです。

「中学の時の苦手は英語だったが、高校では苦手が数学に変わった」という例では、名詞としての使い方です。しかし、多くの場合、"苦手な○○"という形で、これは形容動詞か名詞かは判断が難しいです。

では、名詞の用法がない形容動詞はあるのでしょうか。上で触れた形容動詞のリストで探すと、優れている、という意味の"立派"が見つかりました。

また、"ドライ"、"ユニーク"のように西洋語を取り込んだ言葉は名詞の用法がない言葉があります。

初めに戻る

この記事の冒頭で、「あるきっかけによって、形容動詞というものが気になるようになりました」と書きました。そのことに戻ります。

"大好き"、"大嫌い"という言葉があります。"好き"、"嫌い"という和語に、大(ダイ)という漢語を付けたことが腑に落ちなかったのです。"

精選日本語大辞典の"大(ダイ)"についての語誌欄に、「付く語によって同意の「おお(大)」と使い分けられているが、必ずしも和語、漢語の別にはよらない。」とあります。

この説明の対象は、「名詞の上について数量、形、規模が大きい意を添える」場合と、「状態や程度を表わす語の上に付いて、そのさまのはなはだしい意を添える」場合について述べられたものです。(引用文は筆者による要約)

「状態や程度を表わす語」とは形容詞と形容動詞と考えられます。

同じ辞典の"大(オオ)"についての語誌欄には「現在ではふつう「だい」を用いるような漢語にも、明治期には「おお」が使われることが多い。(「大失策(オホシッサク)」「大賛成(オホサンセイ)」など)」

この説明の対象は「程度のはなはだしい意を表わす。」というところです。

「必ずしも和語、漢語の別にはよらない」というなら、それではどのように使い分けるのか、ということがわかりません。

形容動詞について、大(オオ)または大(ダイ)が付く言葉を私なりに考えてみました。"私なりに"というのは、大(オオ)○○とか大(ダイ)まるまるという言葉は、ほとんどが辞書に採録されていないためです。

表1

語の構造 形容動詞
大(だい)+和語 大好き、大嫌い
大(だい)+中国語 大賛成、大反対、大満足、大迷惑
大(だい)+外来語
大(おお)+和語 大まじめ
大(おお)+中国語
大(おお)+外来語 大馬鹿

なお、ここで、外来語とは、日本、中国以外の由来を持つ言葉を意味します。また、"馬鹿"の由来は必ずしもはっきりはしていないものの、起源は"梵語"とする辞書が多いように感じられたので、"外来語"に分類しました。

なお、名詞を含めると、「大(だい)+中国語」、あるいは「大(おお)+和語」の構成はきわめて多数あります。

前者は、大事件、大震災、大規模、大臣、大納言など、また後者は、大喜び、大もうけ、大助かり、大喜利、大急ぎ、大晦日、大事(おおごと)など、どんどん出てきます。

「大(おお)+中国語」という構成の語もたくさんあります。大地震、大津波、大一番、大看板、大仰(おおぎょう)、大けが、大御所など、多数あります。

考察

大(ダイ)+中国語、あるいは大(オオ)+和語は当然であると考えられ、また"馬鹿"は語源に曖昧な点が残るので、いずれも除外すると、「大好き、大嫌い」が残る結果となりました。

もっとも、大(ダイ)または大(オオ)が付く言葉が意外に少ないことは、これまた驚きでした。ただしこれは、ここでリストアップした形容動詞に関してのことです。

名詞には大(ダイ)あるいは大(オオ)が付く言葉はたくさんあります。そして名詞に関しては、大(ダイ)+中国語、あるいは大(オオ)+和語という例が多いのです。

大(ダイ)は、大事件、大賛成、大反対、大規模、大震災など、また、大(オオ)は、大事(おおごと)、大仕事、大技、大風、大水、大声なども出てきます。

大火事はオオカジですね。大風、大水との連続ということでしょうか。大火災は"だいかさい"ですね。

大(オオ)+漢語はけっして少ないわけではありません。大判、大道具、大番役、大勝負、大地震、大津波、大一番、大看板、大仰(おおぎょう)、大けが、大御所など。

また、大(ダイ)と大(オオ)のどちらも使われる言葉もいくつかあります。大地震(オオジシン、ダイジシン)、大舞台(ダイブタイ、オオブタイ)などです。

まさに、上で触れた精選日本語大辞典の"大(ダイ)"についての語誌欄における「付く語によって同意の「おお(大)」と使い分けられているが、必ずしも和語、漢語の別にはよらない。」ですね。

形容動詞には戻ります。

"とても"または"大いに"という副詞はほとんどの語に付くので、大(だい)または大(おお)を付けて1語の形容動詞にするということの必要性が小さかったという事かもしれません。

なお、"迷惑"は微妙なところがあって、"大(おお)迷惑"という読み方もあるようです。"はた迷惑"(リストアップした145個にはいれていません)という言葉もあり、"はた"という和語が中国語の"迷惑"に付いた形です。


なお、大(ダイ・タイ)+和語としては、"大(ダイ)それた"に気づきました。これは連体詞です。「彼はあのような大それた事件を起こすはずがない」のように使います。

このほか、副詞の"大して"と連体詞の"大した"が出てきます。

"大(ダイ)それた"は"大いに"+"(本筋から)それた"でしょうから、漢語が入ってきてから出てきた言葉のはずです。

ところがそんなところではないことがわかりました。

ここで"大いに"という副詞が出てきました。これは"大きなり"という形容動詞の連用形が変化したということが精選日本語大辞典に書かれています。では"大きな"はというと連体詞という扱いで、これも"大きなり"という形容動詞の連体形から生じたとされます(精選日本語大辞典による)。

ここにおいて、"多い"と"大きい"がかつては未分化だったことが予想されます。"おお"という語幹(とでもいうべき)

漢字では"多"と"大"が明確に区別されているように思われます。

英語でも"many"と"big"は別物です。ここで、"many"は数えられる名詞に使われ、数えられない名詞には"much"が使われます。"much"はそのほか、副詞として"とても"の意味で、例えば"much more"などのように使われます。

精選日本語大辞典では、用例においてその年度が書かれています。"大(ダイ)それた"の用例の一番古いのは17世紀なのです。

精選日本語大辞典では、まず一番古い用例を示す、というのが原則ですから、大声は10世紀、大風は8世紀、大水は9世紀、大事(オオゴト)は16世紀、大技は18世紀です。以外に新しい言葉が多いことに驚きます。

備考

"静かさ"と"静けさ"の違いは微妙です。"静かさ"は「静かな状態の度合い」、"静けさ"は「静かであること」、というところでしょうか。例えば"静寂"は"静けさ"に対応するように感じます。「この掃除機は静かさが抜群だ」、「静けさの中で思索する」という使い分けです。あくまでも私の感じ方です。

さらなる備考

この記事は、2025年末に書いたものですが、次の「日本語のあれこれ日記【80】」の記事と共になぜかアップロードしていませんでした。新しく記事を追加するに当たって、このたびアップロードすることにします。記事の冒頭に日付を載せていますが、ここには原則としてアップロードした日付を書くことにしていますので、記事を書いた時期から大分遅れていますが、原則に従ってアップロードした日付を書きます。



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