日本語のあれこれ日記【46】

原始日本語の手がかりを探る[37]―7と9の出現

[2018/12/24]


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1~10の数における倍数関係

このシリーズの3回前の記事で、1~10の数における倍数関係について書きました。

3と6、4と8の2組は、それぞれは先頭の子音が共通(mとy)で、母音の違いで区別される、というものです。

1と2についても同じ原則が当てはまるので、これも倍数関係と見ることができます。

以下では、断りが無い限り、助数詞"つ"(3:ミツ、4:ヨツという時の"つ")は除いて考えます。

5と10も倍数関係に有り、上記の原則が当てはまる、と仮定すれば、一つの仮説として、5は"いつ(itu)"ではなく"tu"だったとし、10を"to(wo)"とすると、うまく説明ができます。

5-10は"tu-to"と対応づけるというものです。

5の先頭には"イ"が付き、10の終りに"ヲ"が付くということがどのようにしておこったか、についてはまったく見当が付きません。

表1 1,2,3,6,4,8,5,10

1 2 fi fu
3 6 mi mu
4 8 yo ya
5 10 tu to

倍数という点ではこの8個の数字が取り出され、すべて1音で、倍数関係にある二つの数は子音が共通で母音で区別されることになります。

残るは7と9

前記した3回前の記事では、7と9について次のように書きました。

倍数の8個の数字で使われた子音は、"f,m,y,t"です。

7と9にはこれとはダブらない子音にすべきと思われます。

そのような子音は現在の五十音図で見ると、"k,s,n,r,w"があります。

r行の音(おん)は語頭には現れない、という現象はかなり確実ですからこれを除くと"k,s,n,w"です。

ここから二つを使うとすると、7と9に対して"kとn"を使うということに不思議はありません。

ではなぜ"nana"、"koko"と同音を繰り返す形になったのか。それについては倍数の数ではないことを強調するためにそうした、ということくらいしか言いようがありません。

そもそも、7を"na"、9を"ko"という関係がどこから来たのかが分かりません。


最近、気づいたことがありますので、それについて書いてみます。


ひとまず、7と9を空欄として1~10の数を一列に並べてみます。

表2 1,2,3,4,5,6,8,10

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
fi fu mi yo tu mu ya to

5と6は子音は異なりますが、母音は同じです。

5と6の母音が同じ、ということはなぜなのか、については分かりません。(後述します)

そこで、5-6、7-8、9-10というように、隣り合う二つの数を関係づける、という方法で7と9をつくるという方法が考えられたとします。

5-6の関係に合わせて、7については8(ya)と同じ母音で異なる子音、9については10と同じ母音で異なる子音とするのです。

上記のように、まだ使われていない子音は、"k,n,s,w"です。("r"は語頭に立ちませんので除いています。また"濁る音(おん)"の"b, d, g"なども語頭に立たないということで除いています。)

そこで、子音として7はn、9はkを選択したとすると、つぎのようになります。

表3 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
fi fu mi yo tu mu na ya ko to
v- -V
v- -V

この表で、小文字の'v'は大文字の'V'の数を表す音(おん)の母音を、いわばコピーしたものであることを示しています。

ここで改めて考えてみると、5:tuも6:muから母音を共通させて、また子音は1~4までに使われていないものからtを選んで"tu"が生じた、という可能性も考えられます。

つまり、 まず3:miの倍数として6:muができ、次に5-6をカップリングするという見方で、6の母音uを移し、新しい子音としてtを選んで5:tuができた、ということです。

表4 1,2,3,6,4,8,5,10,7,9

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
fi fu mi yo tu mu na ya ko to
CV cV
CV -- -- cV
CV -- -- -- cV
Cv -- -- -- -- cV
Cv CV
Cv cV
Cv cV

この表で、小文字の'c'は大文字の'C'の数を表す音(おん)の子音を、いわばコピーしたものであることを示しています。

また、大文字の'V'同士は異なる子音を持たせたものです。

1-2、3-6、4-8、5-10は倍数の関係で、子音を共通にし母音を異なるものとしています。5-6、7-8、9-10は二つの数の組合せとして母音を共通にし子音を異なるものとしたものです。


表にはしたものの、わかりやすくはなっていないので、改めて文章にしてみます。

(1) "1,2,たくさん"という数え方をしていて、fi、fu、miとしていた所に3以上の数が必要になってきた

(2) たくさんという意味のmiを3に対応させた

(3) 4は、1~3で使われない子音(k,s,t,n,m,y,w)からyを選び、1~3で使われない母音(a,o)からoを選んでyoとした

(4) 5は、1~4で使われない子音(k,s,t,n,m,w)からtを選び、1~4で使われない母音(a)をなぜか避けて(?)3,4で使われていないuを選んでtuとした

(5) 倍数化の関係性(子音を共通にして母音を変える)により、3から6、4から8が生まれた

(6) 隣の数とのカップリングの関係性(母音を共通にして子音を変える)により、6から5、8から7、10から9が生まれた

(7) 倍数化の関係性により、5から10が生まれた

"1,2,たくさん"から出発して、5を除くと、倍数化と隣の数とのカップリングという二つの作用で数が生成された、という考え方です。

5がtuであることは全くの謎です。母音aは7,8で初めて登場するのは遅すぎます。たとえば、1~5までが作られた時代はiuoの3母音しかなかった、とでも考えないといけません。しかし、aという母音は発音するのにもっとも簡単で音(おん)も明瞭で、これを欠く言語は考えられません。(生まれたばかりの赤ん坊の鳴き声はアであることを考えれば確信できます)

もっとも、アは赤ん坊場発する音(おん)なのでこれを避けた、と屁理屈をこねることはできそうです。

7と9

ここまでの結果を一列に並べてみます。

fi fu mi yo tu mu na ya ko to

一見して、単純だな、という印象を受けます。

4まで(fi fu mi yoまで)しか使わないのであれば数の表現としてわかりやすいという点で問題はないでしょうが、10まで拡張すると、「弁別のしやすさ」という点では"難あり"という印象があります。

そこで、"新参者"の7と9に対してその形を変えて、でも"どう変えるのか"というとなかなか難しいので、"安直"に"繰返し"という方法をとることにします。

fi fu mi yo tu mu nana ya koko to

こうすると、弁別性という点でも大きく改善されたと感じます。

隣り合う数の母音連続

8:yaから母音を同じにして7:na(na)が、10:to(wo)から母音を同じにして9:ko(ko)ができた、という見方ですが、このように連続する数の母音が一致するという例は他にも見られます。

以前の日本語のあれこれ日記【40】に、いくつかの言語の数え方の例を載せました。

その中の一つを取り出してみます。

表5 日本語に少しでも似ている数詞の例(言語別)

言語No 言語 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
4970 Palawa Kani pama paya luwa wulya mara nana tura pula tali pama-(?)

数は2音節で表されています。母音を取り出すと、1-2はaa、3-4はua、5-6はaa、7-8はuaというように、二つずつのペアは母音構成が共通しています。ただし、9-10はこの原則から外れています。

なお、"Palawa Kani"とはどんな言語かということをネット上で調べると、Tasmanian Aboriginal Centre が開いているサイトに、オーストラリアのタスマニア島でかつて使われた言語を"再構成"した言語とされています(2018/12/23確認)。

いまのところ、じっくり読む時間がないので、ざっと読んだ内容を書いています。ご興味のある方は上記のサイトでご確認願います。

母音ではなく子音では英語にその例があります。2-3はtwo-three、4-5はfour-five、6-7はsix-sevenというように二つずつの数のペアーは子音を共通にしているのです。同じヨーロッパの言語でもドイツ語、フランス語などではこのような傾向はありませんので、英語でのこの結果は偶然によるものなのでしょうが、なにかそのような結果をもたらす、一種の場(ば)の力(ちから)が作用している可能性は否定しなくても良いように思います。

振り返ってみると

正直な所では、「"こじつけ"とは結構うまくいくものだ」と思いました。

さらには、上に書いたような関係性はすでに誰かが見つけているのだろうな、ということも感じています。

それでも、そういうことを積み重ねていくと、もしかしたら、新しい発見が出てくるのではないか、と思っていろいろとやっているところです。


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