日本語のあれこれ日記【40】

原始日本語の手がかりを探る[31]―諸言語の数詞の比較

[2018/9/13]


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いろいろなサイトからの情報

前回の数の数え方の続きです。

ひとつ、ふたつ、などの数え方についてネットで検索していると、たくさんの方が記事にしていることが分りました。

特に興味を感じた二つのサイトがありました。

高杉さんの「思索の遊び場」

この中の「世界の言語の数体系」というページに、69の言語での数の数え方が紹介されています。

ロゼッタストーンさんの「日本語の起源を探求する」

本当にいろいろな記事があって引き込まれます。

数詞についてもいろいろな事が書かれています。

朝鮮の最古の歴史書「三国史記」から推定される高句麗語の数詞のうち、「三」「五」「七」「十」が日本語と類似している事は良く知られています。

とか、

"ひとつ、ふたつ"については、

日本語の「ヒトツ」と「フタツ」は、AN語起源と考えられます

という記載がありました。

オーストロネシア(AN)語と日本語とを比較して、母音、子音の対応関係を探っていくと、よく対応していることが分る、という内容です(ここは私が理解した範囲で書いています)

これらのサイトの内容自身が大変興味深いのですが、私は60歳台後半になってこの分野を考えるようになったこともあり、じっくりと内容を理解するための時間がありません。

目下の興味だけに焦点を絞らざるを得ませんのです。

zompist.comというサイト

上記の「思索の遊び場」のリンク情報で、様々な言語を比較したページが紹介されていました。

Numbers from 1 to 10 in over 5000 languages

というページです。

これは、zompist.comという、とても広い範囲をカバーしているサイトの中の"Numbers"というリンクの先にあります。

なお、このページのタイトルは長いので、以下、"Numbers in 5000 languages"と略称します。

"Numbers in 5000 languages"の内容は、ロゼッタストーンさんの上記のサイトの「世界祖語」は存在するか?で、"1"と"2"について統計的に詳しく分析されています。

文字通り、1から10までの数の言葉を5000以上の言語についてまとめたものです。

どのようにしてこのような大変な作業が成されたのか、など、その背景にある事情は私にはまだ分っていません。

いずれにしても、現実にそのようなリストがあるのです。


このリストから、ひとつ、ふたつ、という数え方に"近い"言語があるだろうか、というのが興味の中心になります。


なお、言語の数ですが、元のサイトでは

Languages shown: Living 4197 Dialects 270 Non-living 469 Conlangs 317; Total 5253

と表記されています。

私のカウントでは5144でした。もっとも、これだけ多いと、どういう数え方がいいのかよく分りません。

このような多彩な言語の音(おん)をどうしたら表記できるか。とてもやっかいな問題です。各言語での表記(文字)の問題も含めて、解説のページもあります。

今回は、あまり深入りせずに、私の興味のあることに限定して調べてみます。

ひとつ ふたつ

前回の記事で、"ひとつ/ふたつ"が他の"みつ"以降の数詞と傾向が違うと感じられる、という事を書きました。

"ひとつ、ふたつ"の数詞は"fito", "futa"で、どちらも2音節であり、子音はどちらも"f"と"t"の組み合わせです。

そこで、1と2について、先頭の音節の子音が共通である言語があるか、という事を調べてみました。

ただし、日本語でも、1に付いて言えば、pito(tu)からfito(tu)、さらにhito(tu)と変化してきましたから、"p,f,h"のいずれかである、という条件としました。

古い日本語では"ひとつ、ふたつ"は、pito、puta です。

ハ行音は、昔は"ファ"のように"f"音(おん)で、その前は"p"音(おん)だったといわれていて、そのことの表れです。

"ファ"というのは、英語の"f"のように下唇に上の歯を当てる、というものではなく、日本人が"ファイト"などという時のように、唇をつぼめておいて息を一気にはき出しながら唇を開いて発する音とされます。

私が"fito, futa"と書いたのはこの意味で、英語の"f"のような音(おん)ではないのですが、手っ取り早い表現として使っています。

日本語の起源を考えるなら、"f"音(おん)より古い"p"音(おん)の方が適しているようにも考えられます。

つまり、pitö/puta、fito/futa、hito/huta というところの子音の変化は歴史をたどっていて、混じり合うことも多い、ということです。

ですから、調べるのは、pVtV/pVtV、fVtV/fVtV、hVtV/hVtV (左の表記でVは母音を表します)というパターンです。

母音はいろいろと変化しやすいので、今回は無視します。

調査のやり方

1と2に対する数詞の先頭の文字がどちらも"p,f,h"のどれかである、という言語を検索します。

上記の条件の他に、「全く日本語らしくない」と感じられるものは除きました。たとえば、音節が長すぎる、とか、子音が二つ以上続く例が多い、とかです。これについては、原則を明確に書くことができませんでした。私の感覚的なものです。

数は1~10について記載しました。

表1 日本語に少しでも似ている数詞の例(言語別)

言語No 言語 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
1725 +Old Japanese pitö puta mi itu mu nana ya könönö töwo
1726 native Japanese hitotsu futatsu mittsu yottsu itsutsu muttsu nanatsu yattsu kokonotsu
1729 Irabu piti-cï fïtaa-cï mii-cï juu-cï icï-cï mm-cï nana-cï jaa-cï kukunu-cï tuu
1022 Mboi fandi fətši tâagɪn kurun wɔnɔn mintšɪke budu kurunkurun wɔnakurun bu
1023 Yungur (Bena) fini fɪtə tâkin kurun wɔnun mɪndike mbutu kunkurun wɔna bu
1262 Bitare fumo harə a-tate a-nje a-tšon busoru a-tšon da halɛ a-tšon da tate a-tšon da nje ojuate
1578 Kunda posi piri raru či-nā -tanu -tantatu či-nomwe sere femba kumi
1579 Nyungwe posi piri -tatu -nai -xanu -tant’atu činomue sere f’emba k’umi
1582 Podzo posi piri -tatu -nā -sano -tandatu -nomwe a-sere femba kumi
1605 Ndau posa piri -tato -nā -čano tantato či-nome sere fumbawe gumi
2800 Nimowa ho-taga ho-iwo ho-to ho-fadi ho-lima ho-woni ho-fidi ho-wa ho-siwo sia-wate
3594 Chilanga pīs pæ̑ lā́ŭa ts’ā́i ŭī
3629 Pirahã hói hoí
4188 Invori (Tainae) fono foya
4189 Lohiki (Akoye) fonu’ faaina
4191 Hamtai fati hivacu hivacu fati hivacu hivacu [2] [2] [1] feca hatuanga akapu hatuanga [1] feca hatu anga hatuanga
4204 Moni hago hiza nédo wi idi amo né hago amo né hiza hanagi
4288 Opao haipori helaukai
4414 Sanio hɛta’i hɛsi hɛsi heta hɛsiohɛsio ’ɛrɛtifɛni
4970 Palawa Kani pama paya luwa wulya mara nana tura pula tali pama-(?)

"+Old Japanese"はオリジナルの表では"+Old"という表記です。これは、その直前に言語のグループ名として"Japanese"という表記があるからであると考えます。従ってここでは"Japanese"を挿入しました。

なお、言語Noとは、私が勝手につけた番号です。

いくつかの言語だけをこのように取り出すと、その言語が地球上のどの地方の言語なのかわかりにくくなります。

古代日本語について、上記のように"Old"とのみ表示しているのはその一例です。

"Numbers in 5000 languages"の表では、地域ごとにまとめられて示されていますから、ある言語がオリジナルな表でどの位置にあるかを見れば、周囲の言語と照らし合わせて地域を予想しやすい、という考えから、今回、このようにつけてみました。

日本語は、1725(old Japanese)、1726/native Japanese、1729/Irabuの3種類で、この表の先頭に背景色を変えて配置しました。

また、4970の"Palawa Kani"だけは人工言語(constructed laguage)に分類されています。ただし、これはオーストラリアのタスマニアに住むアボリジニが使っていた言語で、これが一旦消滅、あるいは衰退したのち、再構築された、という説明がネットにありましたので、ゼロから作り上げた純粋な人工言語ではないのでしょう。


ここで、変更したいところがあります。

"native Japanese"は現代日本語のことだと思いますが、1~9には"tsu"がついた形になっています。

これは、"tsu"を除くと、たとえば3の"mittsu"はmit"となって、音(おん)としてはおかしなことになるのを避けたのだろうと想像します。

"ミッツ"というのは音便の結果生じたもので、現代日本語でも"ミ"を使うことができます。

たとえば、「その問題は3(サンまたはミ)通りの方法で解くことができます」とか、「三日三晩(ミバン)」「三重県」の"ミ"などです。

そこで、"tsu"を除き、3,4,6,8ではそれぞれ"mi,yo,mu,ya"という表記にします。

言語名が"Irabu"(これは伊良部島のことだと推測しています)では、1~9について、"-cï"が付いていますが、現代日本語における"tsu"と思われます。従ってこの"-cï"は除くのが良いと考えます。

なお、伊良部島の隣の宮古島の方言について解説しているサイトがありましたが、そのページに"引用禁止"と書かれていますので、ここでは取り上げません。

以上の様な変更を加えたものが次の表2です。

表2 日本語に少しでも似ている数詞の例(言語別)

言語No 言語 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
1725 +Old Japanese pitö puta mi itu mu nana ya könönö töwo
1726 native Japanese hito futa mi yo itsu mu nana ya kokono
1729 Irabu piti fïtaa mii juu icï mm nana jaa kukunu tuu
1022 Mboi fandi fətši tâagɪn kurun wɔnɔn mintšɪke budu kurunkurun wɔnakurun bu
1023 Yungur (Bena) fini fɪtə tâkin kurun wɔnun mɪndike mbutu kunkurun wɔna bu
1262 Bitare fumo harə a-tate a-nje a-tšon busoru a-tšon da halɛ a-tšon da tate a-tšon da nje ojuate
1578 Kunda posi piri raru či-nā -tanu -tantatu či-nomwe sere femba kumi
1579 Nyungwe posi piri -tatu -nai -xanu -tant’atu činomue sere f’emba k’umi
1582 Podzo posi piri -tatu -nā -sano -tandatu -nomwe a-sere femba kumi
1605 Ndau posa piri -tato -nā -čano tantato či-nome sere fumbawe gumi
2800 Nimowa ho-taga ho-iwo ho-to ho-fadi ho-lima ho-woni ho-fidi ho-wa ho-siwo sia-wate
3594 Chilanga pīs pæ̑ lā́ŭa ts’ā́i ŭī
3629 Pirahã hói hoí
4188 Invori (Tainae) fono foya
4189 Lohiki (Akoye) fonu’ faaina
4191 Hamtai fati hivacu hivacu fati hivacu hivacu [2] [2] [1] feca hatuanga akapu hatuanga [1] feca hatu anga hatuanga
4204 Moni hago hiza nédo wi idi amo né hago amo né hiza hanagi
4288 Opao haipori helaukai
4414 Sanio hɛta’i hɛsi hɛsi heta hɛsiohɛsio ’ɛrɛtifɛni
4970 Palawa Kani pama paya luwa wulya mara nana tura pula tali pama-(?)

なお、"Numbers in 5000 languages"の表で、"Japanese"に分類されている言語は次のようなものです。

数はここでは1と2だけを示しています。

表3 日本語の数詞

言語 1 2
+Old Japanese pitö puta
native japanese hitotsu futatsu
Sino-Japanese ichi ni
+Old Okinawan titsɨ tatsɨ
Irabu piti-cï fïtaa-cï
Ogami tii tɑɑ
Yuwan ʔtɨɨ ʔtaa-cɨ
Hachijo tetsɯ ɸtatsɯ

表を眺めて考える

一見して、日本語の"ひとつ、ふたつ"に似ているものがまったく無いことが印象的です。

「日本語は孤立した言語」とは言われますが、これほどとは思いませんでした。


表2に抽出した言語はほとんどが現代の言語です。ですから、原始日本語を考えるなら、本当は古代における世界の諸言語と比較すべきです。

しかし、古代における世界の諸言語である程度研究されているのはわずかです。

Numbers in 5000 languages"の表に挙げられた言語は、ある部族だけで話されている、というものが多数を占めていると考えられます。

たとえば、表2の先頭の二つの言語、1022/Mboiと1023/Yungur (Bena)についてネットで調べると、マインツ大学のサイトのADAWANA LANGUAGES PROJECTSというページに次の記載を見つけました。

The languages of the Ɓəna-Mboi or Yungur group are mainly spoken in the northern part of the Adamawa State, Nigeria.

主にアフリカ・ナイジェリアのAdamawa州の北部で話される言語、という事です。

こうなると、東北弁と鹿児島弁を区別して扱うようなレベルか、とも思えます。

ここまで細かく追求しても、日本語に似た言語はないように見えます。

「実は日本語の親戚のような言語が、予想も付かないほど離れた部族で、ほそぼそと現代まで語り継がれていた」、などといったかすかな望みも持てなくなった、というのが実感です。


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