日本語のあれこれ日記【64】

日本語と漢字―その10―幇助(ほうじょ)について

[2024/10/2]


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幇助(ほうじょ)ということば

テレビのニュース番組を見ていて、"幇助"という言葉が出てきました。

おおよその意味は分かっていましたが、正確なところは分かりません。

"ほう助"と書く例を何度も見てきたので、"幇"は常用漢字ではない、と、その瞬間思いました。それで、"幇助"という表記だったので、ちょっと気になったのです。

まず漢字辞典を見てみると、"幇"の意味は"助ける"とか"援助する"という意味しか書かれていません。

熟語の"幇助"については、(1)一般的に助けること、(2)犯罪の実行が容易になるように手助けすること、の二つの意味が書いてありました。これは国語辞典でも同様です。また(2)の意味については、[国]のような表記をしているものもあり、これは中国語由来の意味ではなく、日本独自の意味であることが示されています。

念のため、現代中国語の中国語辞典(*)を見ると、"幇"の意味はいろいろとあるようですが、"幇助"の意味は、単に"手助けする"という意味であり、犯罪との関係はありません。

講談社中日辞典 第二版 相原茂編 講談社 2002年12月
中日大辞典 増訂第二版 愛知大学中日大辞典編纂処編 大修館書店 1999年11月増訂第二版第7刷発行

例文を見ると、「お母さんを助けて家事をする」(講談社中日辞典)、とか、「新しい幹部が成長していくように援助する」(中日大辞典)などで、確かに犯罪に絡んだ例文はありません。

という事は、日本人が、「犯罪が容易になるように手助けする」ということを意味する言葉が必要になり、(おそらくあまり使われなかった)"幇助"という言葉を割り当てたのだろう、と推測しました。

幇助という言葉の最古の使用例は、精選版日本国語辞典によれば、1784年の小説字彙とあります。字彙と言うことですから辞書のようなものでしょう。

ネットで検索して見るとありました。畫引小説字彙(カクビキショウセツジイ)です。天明4年発行とあり、西暦1784年です。全130ページ中の88ページに、幇助の項があり、「テツダウコト」とあります。なお、"コト"は"ヿ"という表記です。意味としては中国語と同じです。

英語との関係

"幇助"を英語では何というか、ということを調べると、"aiding and abetting"とありました。動詞形では"aid and abet"ということになります。

こういう場合、いくつかの表現があるのが多いのですが、全くブレずに"aiding and abetting"なのです。

その代表的な例は、講談社 日本語大辞典(*)で、二つの意味を載せていて、その第1は「助ける、手伝う」、その第2は「法律で、違法な行為の実現を手伝うこと。aid and abet.」となっています。

(*) 梅棹忠夫・金田一春彦・阪倉篤義・日野原重明監修 講談社 カラー版 日本語大辞典 第2版第1刷 1995年7月 講談社

講談社 日本語大辞典は国語辞典ですから、英語との関係は通常は説明されません。それがここでは"はっきり"書かれています。

小学館の日本国語大辞典をを見ると、例文に、「刑法(明治40年(1907年)62条 『正犯を幇助したる者は従犯とす』」かあります。

もう一つの例文は「青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋」が書かれています。

おそらく、このあたりが犯罪と絡む意味を使い出したのではないかと思われます。

おおよそ、幇助="aid and abet"と見て良いと考えられます。明治時代に近代的な法律が整備されてきた過程で、外国の法律を参考にしているはずで、"aid and abet"に対応する言葉が必要になり、"幇助"という言葉を割り当てた、のではないか、と想像します。

意味からいっても、aid, abet のどちらも基本的に助ける、という意味合いで、細かく見るとaidは特に限定されることなく広い意味で"助ける"という意味を持ち、一方abetは、犯罪の実行を支援する、という意味合いが含まれるようです。

漢字には犯罪に絡んでの助ける、という意味を持つ言葉がないので、広く"助ける"という意味の二つの漢字をまとめた"幇助"という言葉を採用したのでしょう。

つまり、"幇助"の起源は、"aid and abet"だと思います。

法令の英訳

上では、"幇助"は"aid and abet"、また同時に"aid and abet"は"幇助"である、と考えたのですが、事実はそう簡単にはいかないことがわかりました。

日本法令外国語訳データベースシステムというサイトがあります。ここに、日本の法令の英訳文が示されています。なお、左のリンク先は刑法の部分です。

利用規約には、「翻訳はあくまでその理解を助けるための参考資料です」とありますが、日本政府の法務省のサイトですから、用語をどのように扱うか、という事を調べるには最も確実だと思います。

"幇助"という言葉は刑法に関わるものだと思われますので、刑法を確認することにします。

"幇助"を検索すると、13個所が検索されます。そのうち、3個所は目次で、残る10個所に"幇助"という言葉が含まれる条文があります。

以下にその10個所について抜き書きします。

(1) 第二条第二項 ・・・・内乱等幇助・・・・Accessoryship

(2) 第六十二条の見出し語 幇助・・・・Accessoryship

(3) 第六十二条・・・・正犯を幇助した者は・・・・A person who aids the principal offender

(4) 第六十四条の見出し語・・・・唆及び幇助の・・・・ Inducement and Accessoryship

(6) 第七十九条・・・・前二条の罪を幇助した者・・・・A person who aids the commission of any of the crimes

(7) 第二百二条・・・・人を教唆し若しくは幇助して自殺させ・・・・A person who induces or aids another person to commit suicide

(9) 同条第二項・・・・○○の罪を犯した者を幇助する目的で・・・・For the purpose of aiding another person who has committed the crime

(10) 第二百二十九条・・・・○○の罪を幇助する目的で ・・・・aiding the person who has committed the crime

一つの単語としては "Accessoryship" になっています。(1), (2), (4)

説明の中で使われるときには、"aid XXX"という表現が6ケースあります。(3), (6), (7), (8), (9), (10)

"abet"という言葉と組み合わせる例が1ケースあります。ただし、"aiding or abetting"というフレーズです。(5)

このように、ほとんどが"aid"で、その対象が犯罪人(a person who has committed the crimeなど),あるいは"犯罪の実行"(A person who aids the commission of any of the crimes)です。

"aid and abet"はありません。

"Accessoryship"ですが、"Accessory"が従犯者ということで、普通に言うアクセサリー、つまり装飾品、付属品という意味も持ちます。"Accessoryship"では、正犯に付属する人、あるいは協力者になるのでしょう。"friend"の友人に対して、"friendship"が"友人であること"ということに対応します。

つまり、正犯に対して、アクセサリー的に行動する人、ということになるのでしょう。

"aid"ですが、この場合、助ける相手・対象は、"犯罪を犯す人"、または"犯罪の実行"です。

"aid"は単に助ける、という意味で、"abet"が犯人また犯罪を助けるという意味合いを含みます。"犯罪を実行するのを"という事を明示した時には、"abet"を使うと意味が重複するので、"aid"を使っているのでしょうか。


ここで長々と書いたのは、"幇助"という言葉を使わなくても、"犯罪を行う人を援助ける"、あるいは"犯罪の実行を助ける"という表現で"間に合う"のではないか、と言うことです。"

単語として"Accessoryship"を使う場合でも、"犯行支援"などと言うことができます。


こういうことを考えていると、漢字を使う中国語があまりにも造語力が強力なために、日本語がその強力さに頼りすぎた、ということ、および、実にさまざまな言葉が中国語の中にすでにできていて、それを流用することが容易なこと、という二つのことが影響しているような印象を持ちます。

新しい言葉を作ってもいいし、昔使われたにしても、さほど広くは使われなかった言葉を流用してもよいのです。

しかも、漢字が流入して以来、日本は政治・文化が中国の影響をあまりにも長く、強く、受け続けてきました。

漢字、漢語がもともと中国語という外国語である、ということを意識しない状態になっていたのです。


文化とか文明とかに類する実に多くのことが、そして文字までが、中国に、少なくともその起源は、由来しているのです。

そして漢字、漢語があまりにもたくさん入ってきてしまっているので、中国という外国由来であることは意識の外にはじかれてしまっています。

置き換え

"aid and abet"の訳語として、"幇助"という言葉が必要なのか、というと、私は疑問だ、と思います。

上で触れた明治40年の刑法で、「正犯を幇助したる者は従犯とす」とありますが、「正犯を支援したる者は従犯とす」、あるいは「正犯の犯罪実行を支援したる者は従犯とす」でよいのではないか、と思うのです。

"正犯"と言っているのですから、犯罪に絡んだことを言っていることが明らかです。「正犯を支援したる者は…」で十分です。どうしても「犯罪の実行を支援」ということを言いたいのであれば、「正犯の犯行を支援する…」といえばいいのです。

上に引用した英語表記のように、「犯罪を行う人を援助する」という表現です。

ここで言いたいのは、「漢字または漢字の組み合わせで一つのモノ、または概念に対応させることをしなけれはならない、という縛りをなくすべき」、と言うことです。

新しいモノ、あるいは概念はどんどん増えていきます。それぞれに一つの漢字または単語を割り当てると、どんどん数が増えます。

「○○的な××」とか「〇〇を△△する××」など、言葉の組み合わせで表現すべきである、ということです。

懲役と禁固

別の例について考えてみます。

懲役と禁固です。

実は私はいままで誤解していたことが分かりました。

懲役は、「懲らしめるために労役を課す」というのが懲役で、「その労役まで制約するのが禁固」というように理解していて、禁固の方が懲役よりも厳しい刑だと思っていたのです。

正しくは、禁固は刑務所に閉じ込めること、懲役は禁固に加えて労役を課す、ということで、懲役の方が禁固よりも厳しい刑なのですね。

刑法第九条に刑の種類が列記されていて、「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料、没収」とあり、続く第十条に、第九条に書かれた順序は刑の軽重(重いものから軽いもの、ということでしょう)を示す、ということが書いてあります。

細かいことを言うと、禁錮の期間が懲役の期間より二倍を超えて長いときは禁固の方が重い刑とする、とも書かれています。

でも、考えてみると、懲役も禁固も「投獄、すなわち刑務所に閉じ込める」という一番根本的なことが文字に現われていません。

懲役=禁固+労役という関係が分からないのです。

これは英訳を見ると明快です。

懲役は"imprisonment"、禁固は"imprisonment without work"です。ということは、"imprisonment"は労役を含むのでしょう。

懲役といえば、字面だけ見ると、「毎日、自宅から作業場に通って労役に服するという刑罰」、と理解する可能性もあると考えてしまいます。禁固であれば、自由な行動を堅く禁ずる、というイメージで、「一定期間(無期限を含む)は刑務所に閉じ込めて、外に出さない」、というイメージが感じられます。


英語では、ほかに "penal servitude" という表現もあるようです。

"servitude" 単独では、奴隷状態とか隷属などの意味ですが、 "penal servitude" となると、辞書(たとえばCollinsの辞書サイト)によると、「刑務所に入って重労働に服する」という意味になります。

"penal" は「罰としての」という意味ですから、"重労働"という意味は直接的には含まれません。もっとも、"奴隷状態"であれば、きつい労働という意味が含まれるでしょうから、 "servitude" には"重労働"という意味が最初から含まれているのかもしれません。

ネットでしらべると、"重懲役"というものがあり、明治時代の途中まで使われた言葉の用です。そして、 "penal servitude" を"重懲役"に対応させているケースもあります。

"penal servitude" も"重懲役"も現在では廃止された刑法で使われた言葉のようですが、この辺を調べだすと、また大変なことになり、本題からはずれてきますので、このへんでやめておきます。

どんなことでも、細かく調べだすと、きりがありませんね。おもしろいことは確かなのですが。


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