日本語のあれこれ日記【32】

原始日本語の手がかりを探る[23]―自動詞と他動詞の対応関係のまとめ

[2018/4/14]


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自動詞と他動詞の対応

自動詞と他動詞が音(おん)の点で対応している場合に、どのような関係があるかということについて、もう少し幅広く調べることにしました。

やってみると、予想以上の興味深い結果が出ました。

以下、調査結果を示して、その次に見つかった特徴について述べていきます。

下の表1~4は、自動詞と他動詞とを1行で対応させて表したものです。

この表の中では本体部、修飾部、変化部という表現をしているところがあります。

変化部は今まで変化部分と呼んでいた部分で、いわゆる活用語尾です。ただし一般的な分け方とは異なる所もあります。本体部は変化部以外で自動詞・他動詞に共通な部分、または一部の文字が交替している部分です。修飾部は残りの部分で、自動詞又は他動詞のどちらかにおいて追加されているように見える部分です。

この3つの部分については次回の記事で詳しく書く予定です。

表1 自動詞と他動詞の終止形が同じ

項目 自動詞 他動詞 備考
活用の種類の違い 活用の種類終止形本体部修飾部変化部 活用の種類終止形本体部修飾部変化部
同じ
異なる 四段 付くt u k a/i/u/u/e 下二段 付くt u k e/e/u/uru/ure
四段 添ふs o h a/i/u/u/e 下二段 添ふ s o h e/e/u/uru/ure
四段 空(あ)く aka/i/u/u/e 下二段 空(あ)く ake/e/u/uru/ure
四段 漬(つ)く tuka/i/u/u/e 下二段 漬(つ)く tuke/e/u/uru/ure
四段 立つ tat a/i/u/u/e 下二段 立つ tat e/e/u/uru/ure(*1)
四段 向く muka/i/u/u/e 下二段 向く muke/e/u/uru/ure
四段 またぐ matuka/i/u/u/e 下二段 またぐ matuke/e/u/uru/ure
四段 叶(かな)ふ kanaha/i/u/u/e 下二段 叶(かな)ふ kanahe/e/u/uru/ure
四段 並(なら)ぶ naraba/i/u/u/e 下二段 並(なら)ぶ narabe/e/u/uru/ure
四段 開(あ)く aka/i/u/u/e 下二段 開(あ)く ake/e/u/uru/ure
下二段 裂く sake/e/u/uru/ure 四段 裂く saka/i/u/u/e
下二段 焼く yake/e/u/uru/ure 四段 焼く yaka/i/u/u/e
下二段 割る ware/e/u/uru/ure 四段 割る wara/i/u/u/e
下二段 開(ひら)く hirake/e/u/uru/ure 四段 開(ひら)く hiraka/i/u/u/e (*2)
上二段 伸ぶ nobi/i/u/uru/ure 下二段 伸ぶ nobe/e/u/uru/ure

Note. 自動詞の"伸ぶ"を下二段活用としていたが、誤りであり、上二段に訂正した。 [2008/4/20]

表2 自動詞の r と他動詞の s の交替

項目 自動詞 他動詞 備考
活用の種類の違い 活用の種類終止形本体部修飾部変化部 活用の種類終止形本体部修飾部変化部
同じ 四段 成るnara/i/u/u/e 四段 成すnasa/i/u/u/e
四段 残るnokora/i/u/u/e 四段 残すnokosa/i/u/u/e
四段 漬(ひた)るhitara/i/u/u/e 四段 漬(ひた)すhitasa/i/u/u/e
異なる 四段 乗る nora/i/u/u/e 下二段 乗す nose/e/u/uru/ure
四段 寄る yora/i/u/u/e 下二段 寄す yose/e/u/uru/ure
上二段 足る tar i/i/u/uru/ure 四段 足す tas a/i/u/u/e
上二段 借る kar i/i/u/uru/ure 四段 借す kas a/i/u/u/e
下二段 流る kare/e/u/uru/ure 四段 流す kasa/i/u/u/e(*3)
下二段 隠る kakure/e/u/uru/ure 四段 隠す kakusa/i/u/u/e

表3 他動詞に ar/ir を挿入して自動詞化

項目 自動詞 他動詞 備考
挿入される文字 活用の種類終止形本体部修飾部変化部 活用の種類終止形本体部修飾部変化部
ar 四段 上がる agara/i/u/u/e 下二段 上ぐ age/e/u/uru/ure
四段 植わる uwara/i/u/u/e 下二段 植Wu uwe/e/u/uru/ure
四段 下がる sagara/i/u/u/e 下二段 下ぐ sage/e/u/uru/ure
四段 分かる wakara/i/u/u/e 下二段 分く wake/e/u/uru/ure
四段 重なる kasanara/i/u/u/e 下二段 重ぬ kasane/e/u/uru/ure
四段 備はる sonahara/i/u/u/e 下二段 備ふ sonahe/e/u/uru/ure
四段 絡まる karamara/i/u/u/e 下二段 絡む karame/e/u/uru/ure
四段 伝はる tutahara/i/u/u/e 下二段 伝ふ tutahe/e/u/uru/ure
四段 繋(つな)がる tunagara/i/u/u/e 下二段 繋(つな)ぐ tunage/e/u/uru/ure
四段 広まる hiromara/i/u/u/e 下二段 広む hirome/e/u/uru/ure
四段 広がる hirogara/i/u/u/e 下二段 広ぐ hiroge/e/u/uru/ure
四段 狭(せば)まる sebamara/i/u/u/e 下二段 狭(せば)む sebame/e/u/uru/ure
四段 改まる aratamara/i/u/u/e 下二段 改む aratame/e/u/uru/ure
ir 四段 交(ま)じる mazira/i/u/u/e 下二段 交(ま)ず maze/e/u/uru/ure(*4)

表4 自動詞に as/os/is を挿入して他動詞化

項目 自動詞 他動詞 備考
挿入される文字 活用の種類終止形本体部修飾部変化部 活用の種類終止形本体部修飾部変化部
as 上二段 満つ miti/i/u/uru/ure 四段 満たす mitasa/i/u/u/e
上二段 生く iki/i/u/uru/ure 四段 生かす ikasa/i/u/u/e
下二段 出(いづ) i d e/e/u/uru/ure 四段 出(い)だす i d as a/i/u/u/e
下二段 明(あ)く ake/e/u/uru/ure 四段 明(あ)かす akasa/i/u/u/e
下二段 燃ゆ moye/e/u/uru/ure 四段 燃やす moyasa/i/u/u/e
下二段 肥ゆ koye/e/u/uru/ure 四段 肥やす koyasa/i/u/u/e
下二段 絶ゆ taye/e/u/uru/ure 四段 絶やす tayasa/i/u/u/e
下二段 暮る kure/e/u/uru/ure 四段 暮らす kurasa/i/u/u/e
下二段 消ゆ kiye/e/u/uru/ure 四段 消す kiyasa/i/u/u/e(*5)
下二段 越ゆ koye/e/u/uru/ure 四段 越す koyasa/i/u/u/e(*6)
os 上二段 落つ oti/i/u/uru/ure 四段 落とす otosa/i/u/u/e
上二段 降(お)る ori/i/u/uru/ure 四段 降(お)ろす orosa/i/u/u/e
上二段 干(ふ) hi/i/u/uru/ure 四段 干(ほ)す hosa/i/u/u/e
上二段 過ぐ sugi/i/u/uru/ure 四段 過ごす sugosa/i/u/u/e
上二段 滅ぶ horobi/i/u/uru/ure 四段 滅ぼす horobosa/i/u/u/e
is 上一段 見る mi/i/iru/iru/ire 下二段 見す mise/e/u/uru/ure(*7)
上一段 着る ki/i/iru/uru/ure 下二段 着す kise/e/u/uru/ure(*7)
上一段 似る ni/i/iru/uru/ure 下二段 似す nise/e/u/uru/ure(*7)

以下、「精選版日本国語大辞典」に基づく情報は"精選"と略記します。

(*1) 他動詞には四段活用もある。

(*2) 活用については精選の"開(ひら)く"の補注に「古くは、四段活用の「ひらく」は、他動詞としての用法に限られ、自動詞の用法は、下二段活用の「ひらく」が対応していた。」とあるのに基づく。

(*3) 借・貸と漢字は異なるが、固定部の"か"という音(おん)は共通。古代の日本語ではカル・カスという対応があり、漢字を割り当てるときにそれぞれの意味に対応する漢字を使ったものと考えられる。

(*4) 交ざる(四段)の初出は江戸時代(精選)なので対象外。東国方言か?また類似の交(まじ)ふ・交へるがあるが、漢文訓読文に用いられた(精選)ことから対象外とする。

(*5) 次のように説明できる。"消ゆ"に対して"as"を挿入して"消やす(kiyasu)"になり、その"iya"が"i"と"y"の発音上の近さから"y"が省略されて"ia"となり、"ia"が"e"に変化した。つまり"iya⇒ia⇒e"に変わり、"消す"になったと考えられる。

(*6) 説明は難しい。"越ゆ"に対して"as"を挿入して"越やす(koyasu)"で、その"oya"の"y"が(なぜか)省略されて"oa"に成り、"oa"が"a"に変化(定説なし?) した。つまり"oya⇒oa⇒o"と変化したか?類似のものとして、燃すがある。燃やすに対して燃すというもので、初出(精選)は14C末、現代では主に関東・東北方言とされている。ここでも"oya"が"o"に変化したという可能性がある。

(*7) 終止形だけを見ると、"見る"・"見す"、"着る"・"着す"、"似る"・"似す"で、"r・s"の交替型に見えるが、その他の活用形では、たとえば未然・連用形では自動詞"み/み"が他動詞は"みせ/みせ"であり、自動詞に"r"の音(おん)がなく、他動詞で"s"の音(おん)が加わったと見るべきと考えられる。

【その他の参考事項】

(1)助く・助かる…精選では、"助かる"は平安朝の俗語、とあるので対象外。

(2)教(をし)ふ・教(をそ)はる…精選では、"教わる"の初出は江戸時代なので対象外。ただし"し""そ"の対応は気になります。

(3)自動詞・他動詞同形の"脱ぐ"の対応は、自動詞"脱ぐ"の初出が江戸時代なので対象外。

自動詞と他動詞の対応関係のパターン

本来は関係する動詞を網羅的に調査した上で検討すべきでしょうが、現時点ではそれは難しいので、表1~4に乗せた動詞に対して検討していきます。

上記の表1~4によれば、自動詞・他動詞に対応関係が見られる場合、次の4つのパターンに分類できるものと考えられます。

(1)自動詞と他動詞の終止形が同形

(2)自動詞の r と他動詞の s との交替

(3)他動詞に ar/ir を挿入して自動詞化

(4)自動詞に as/os/is を挿入して他動詞化

以下、それぞれのパターンについて考えていきます。

(1)自動詞と他動詞の終止形が同形

15例のうちの一つを除く14例は四段活用と下二段活用の対応です。ただしどちらが自動詞でどちらが他動詞という傾向は見られません。

(2)自動詞の r と他動詞の s との交替

これは前回の記事で書いた「"○る動詞"と"○す動詞"」に対応します。

活用の種類に関しては、自動詞・他動詞では四段・四段、四段・下二段、上二段・四段、上二段・四段の4種類で、自動詞・他動詞のどちらかは四段動詞です。

"○る動詞"、"○す動詞"は終止形で代表させて表現したものですが、音(おん)としては"r"は"ら・り・る・れ"と"るる・るれ"であり、"s"は"さ・し・す・せ"と"する・すれ"です。

大まかには、"r"はラ変動詞"あり"、"s"はサ変動詞"す"に対応しているという印象がありますが、はっきりしたことは分かりません。

(3)他動詞に ar/ir を挿入して自動詞化

14例のすべてが、自動詞は四段活用、他動詞は下二段活用です。またその内の1例を除くと、自動詞化のためにに挿入されているのは"ar"です。

"ar"はラ変動詞"あり"が連想されます。

1例だけは"ir"が挿入されています。"交じる"です。これに似た"交ざる"もあります。初出が東海道中膝栗毛で19世紀初めのことになりますが、"r"音(おん)が挿入されて自動詞化する場合"ar"が圧倒的多数であり、それに引きずられて"ar"が挿入される形の"交ざる"が発生した可能性があります。

参考までに、現代語では下二段動詞は下一段動詞に変化し、たとえば"上がる・上ぐ"というペアは"上がる・上げる"になります。

"ag-ar-a/i/u/u/e"と"ag-e/e/eru/eru/ere"ですから、ここでも"自動詞においては"ar"が挿入された、という点は保存されています。

終止形で見てみると、"agaru"と"ageru"はarとerの対応のようにも見えます。自動詞のr音は自動詞化の"ar"であり、他動詞のr音は、以前に言及した、私が勝手に名付けた "r化" によるものです。

もともと "r化" と呼んだものは形式上そのように見えるだけで、本質的にどういうことなのかについては全く分かっていませんでした。ここで改めて考えると、"r化"という現象は自動詞化の"ar"と何か関連性があるのか、という疑いが起きてきています。

(4)自動詞に as/os/is を挿入して他動詞化

"as"挿入型が10例、"os"挿入型が5例、"is"挿入型が3例となっています。"as"挿入型と"os"挿入型ではすべて他動詞が四段活用です。

"as"挿入型の自動詞は2例が上二段活用、8例が下二段活用です。

"os"挿入型の自動詞はすべて上二段活用です。

"is"挿入型の自動詞はすべて上一段活用、他動詞はすべて下二段活用です。

このように、このグループでは活用の種類と挿入される文字の関係が規則的です。

自動詞と他動詞の対応関係の見直し

前々回の記事で、"成る・成す"、"見る・見す"のような対応関係に対して、"○る動詞"と"○す動詞"、つまり"る―す"という対応関係を考えたのですが、"見る・見す"については"る―す"の対応ではなく、一方に"is"が挿入されたものであることが明らかにできました。

前回、前々回の記事とこの記事は重複している部分もありますが、一応の整理ができたと思います。


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