日本語のあれこれ日記【31】
[2018/4/6]
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"aru"で終わる動詞
一つ前の記事で、次のように書きました。
ただし、自動詞化する語尾が"ar"ということの分析は例が少なすぎるので、これ以上は進めないことにします。
ちょっと調べてみると、例がたくさんありました。
嵌(は)む―嵌まる
預(あづ)く―預かる
授(さづ)く―預かる
離(さ)く―離かる
曲(ま)ぐ―曲がる
集(あつ)む―集まる
重(かさ)ぬ―集なる
左の動詞はいずれも、下二段活用の他動詞で、右側は四段活用の自動詞です。
一つ前の記事で取り上げた"上ぐ―上がる"、"下ぐ―下がる"も下二段活用の他動詞に対する四段活用の自動詞ということは共通です。
捨つ―廃(すた)る
これは、漢字が違いますが、意味の上では近いものがあり、漢字では"捨たる"より"廃(すた)る"、の方がふさわしいということで、このような漢字の割り当てられたものと考えられます。
なお、「精選版日本国語大辞典」の"すた・る【廃】"の項の語誌欄には、次のような記載があります。
(2)近世以降「捨」の字をあてる慣用があり、それにひかれた意味の展開もみられる。
他動詞を自動詞化する要素として"ar"を想定して良いと考えます。
動詞"す"、"あり"との関係
これも前回の記事で書きましたが、他動詞化する要素"as"と自動詞化する要素"ar"があるように見えるのですが、これは動詞"す"と"あり"に対応するものなのか、これが気になります。
もう一度、他動詞で"as"が付く動詞を示します。
枯る―枯らす
癒ゆ―癒やす
肥ゆ―肥やす
燃ゆ―燃やす
絶ゆ―絶やす
左の自動詞は、下二段活用で、右側は他動詞で四段活用です。サ変動詞"す"には"as"という部分がありません。また下二段動詞の変化しない部分にも"a"の音(おん)はありません。
ですから、他動詞化する要素"as"はサ変動詞"す"というわけではないと考えられます。
活用の行について
一つ気がついたことは、他動詞化する"as"要素はラ行、ヤ行の動詞に付き、自動詞化する"ar"要素はカ行、ガ行、ナ行、マ行に付くという傾向があることです。
上に上げた例ではすべて当てはまります。
また、一つ前の記事で上げた"○る動詞"と"○す動詞"の例は以下のようなものです。
"足る―足す"
"成る―成す"
"寄る―寄す"
"乗る―乗す"
"見る―見す"
"似る―似す"
最初の4例は、左側の自動詞は最初の4例が四段で残りの2例が上一段、右側の他動詞は最初の2例が四段、次の4例が下二段という活用です。
もう一つの他動詞化要素"os"
他動詞化する要素"as"について上書きましたが、"os"というばあいもあることに気づきました。
降(お)る―降ろす(下(お)る―下ろすも同じ)
起く―起こす
この他に、退(の)く―残すも原初日本語としては同じグループかと思いますが、漢字が違っているので、今は別扱いにしておきます。
活用は、"降(お)る"は or-i/i/u/uru/ure で上二段活用、他動詞"降ろす"は or-os-a/i/u/u/e です。
また、"起く"は ok-i/i/u/uru/ure で上二段活用、他動詞"起こす"は ok-os-a/i/u/u/e です。
この2例だけを見ると、or、ok という所の"o"の音(おん)と連動して"os"になるのか、とも考えられますが、「肥ゆ―肥やす」、「燃ゆ―燃やす」では、koy、moy というように"o"の音(おん)があっても、他動詞化すると「肥やす」、「燃やす」ですから as という形であり、音(おん)の連動ということでもないと考えられます。
まとめると、他動詞化する要素は"is"、"as"、"os"の3種類があることになります。"us"、"es"があるかどうかは分かりません。
他動詞化/自動詞化のパターン
他動詞化の場合
動詞不変化部分(子音で終わる)の末尾が"r"で、これを"s"に置き換える
動詞不変化部分と変化部分の間に "is"、"as"、"os" を挿入する
自動詞化の場合
動詞不変化部分と変化部分の間に "ar" を挿入する
いずれにしても、他動詞が"s"に対応し、自動詞は"r"に対応するということは共通しています。
なお、自動詞、他動詞という表現ですが、もうすこし詳しくいえば、自動詞とは状態や性質を表すことも含み、他動詞とは動作や変化を表すことも含みます。
たとえば"残す"に対する"残る"は状態(残っている)であり、"曲ぐ"に対する"曲がる"は性質(高温では曲がる)といえるでしょう。
また他動詞では、"叶(かな)う"(現代語では叶える)は動作というよりは変化であるように感じます。
他動詞化するときに、"足る―足す"のように四段活用のまま活用形が変化しない場合と、"寄る―寄す"の用に、四段から下二段に変化する場合があることはまだ分かりません。