気まぐれ日記 15


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[2014/8/5] 枕草子 第32段 網代ははしらせたる その2

網代車は走ることができるか、ということについて、少し進展がありました。

参考にしたのは、「枕草子全注釈」です。以下、「全注釈」と略称します。

枕草子全注釈 一 田中重太郎著 角川書店 昭和47年12月30日 初版発行

走る網代車の例

「全注釈」の第32段の解説で、「第37図 網代は走らせたる(『年中行事絵巻』第11巻第2弾)というのが P.281 にあります。印刷は鮮明ではありませんが、疾走しているように描かれた牛車が分かります。解説には、網代車が走ったときの問題点については何も触れられていません。何も問題がないような書き方です。

そうなんでしょうか。ちょっと腑に落ちません。

一つ前の記事で、二つの問題点を書きました。乗っている人が振動の大きさに耐えられない、また、牛車の機械的強度が振動の大きさに耐えられない、という疑問点です。

このうち、乗っている人の問題は一つヒントがあります。

金原亭馬生さんの落語「目黒のさんま」で、馬の背に取り付けられた鞍について馬生さんは次のようなことを語っています。

日本では馬の鞍は木でつくります。私は一度乗ってみたことがありますが、とっても堅い。よくこんな堅いものの上に乗っていられるなと感心します。昔の人はお尻が実に丈夫だったんですねえ

もしかすると、牛車というものは揺れて当たり前だったのかもしれません。乗る人はそういうものだと了解していたということでしょうか。

でも、舗装されていない道路を牛車が疾走する、というのですが、車輪の軸はどのように支持されているのでしょうか。金属の車軸と金属の軸受けなどは使われていなかったのではないかと思うので、機械的強度として耐えられないと感じてしまいます。

年中行事絵巻

「枕草子全注釈」を借用した図書館に、ありがたいことに「年中行事絵巻」もありました。

日本の絵巻 8 年中行事絵巻 小松茂美編 中央公論社 昭和62年11月20日 発行

その巻第11 稲荷祭 のなかで、P.52とP.54に疾走する牛車が描かれています。

画像の引用について、著作権がどうなっているのかよくわからないので、ここでは画像を挿入することはしません。

車輪を見ると、高速回転している事を示す渦の様なものが描かれています。

牛の足は二本の前足が地面を蹴り、二本の後ろ足は長く伸びていて、かなり早く走っていることが分かります。前足の二本が同じ動きをして、後ろ足の二本も同じ動きで、馬の走り方とは異なり、野生のライオンとかチーターなどの走り方に似ています。

また、牛を抑えようと必死の牛飼いの姿からも牛の疾走ぶりがわかります。

牛車の中には乗っている人の姿があり、無人ではありません。

確かに走っています。


ここに描かれたのは、いわば暴れ牛で、枕草子に書かれた「網代ははしらせたる」というものではないでしょうが、しかし、網代車でも走ることがある、というのは確かの様です。

上記したように、乗っている人は我慢できる、という可能性はありますが、機械的強度として耐えられるか、ということについてはまだ疑問のままです。



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