考えてみると=まじめ編=原発=


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【6】大飯原発再稼動について (2012/7/11)

前回の【4】で限界試験について書き(2012/6/6)、その続編として【5】を書きました(2012/6/14)。


安全だと言うが、どこまで行ったらどのような危険な状態になるのか、を、安全な範囲だけでなく、危険になる範囲まで広げて考えるべきである。

東電は、福島第一原発で、この限界試験に関する検討をしていたことが、最近になって発表されました。


実は、上に書いた「限界試験」は、原発の再稼働に必要なストレステストの一環として、すでに実施されていることが最近(7月)になってわかりました。

そこでその内容をすこし書いてみようと思います。

このところ大きな話題になっている、福井県の関西電力大飯原発に関してです。

大飯原発再稼動について

再稼働の動きはこのようになっています

ストレステスト

以前に菅内閣が「ストレステストをやる」、と言っていたはずだが、どうなったんだろうと思い、原子力安全委員会のサイトを覗いてみました。

「過去の会議等」という見出しがあるので、そこに飛ぶと、1979年からの定例会議・臨時会議の議事録と会議資料を見ることができることがわかりました。

今年(2012年)については、第1回臨時会議から第29回臨時会議まで項目が並んでいます(2012/7/6現在)。

大飯原発に関係するものを探すと、第7回臨時会議(2012.02.13)の議題が下記でした。

(1)関西電力(株)大飯発電所3号機及び4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)について

他の議題は「その他」ですから、実質的な審議事項はこの1件だけのようです。

配布資料として、次の様なものが登録されています(一部を抜粋)。

(1-1)関西電力株式会社大飯発電所3号機及び4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する審査結果について(報告) (PDF:8.6 MB)

(1-2)東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた大飯発電所3号機の安全性に関する総合評価(一次評価)の結果について(報告) (PDF:35.7 MB)

(1-3)東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた大飯発電所4号機の安全性に関する総合評価(一次評価)の結果について(報告) (PDF:35.3 MB)

「速記録」には、議事進行がつづられており、会議資料の内容説明と質疑応答が詳しく書かれています。

この速記録、その他を勘案すると、全体的な流れは以下の様です。

福島第一原発であれだけの大事故が起きている現在、何をもって「安全性に問題なし、再稼働はOK」という結論を出したのか。

これは調べないわけにはいかないと思いました。

政府の判断は、報道などの内容を参考にすると、計画停電をさけ、電力の安定供給を最優先した、ということと私は理解しました。


安全性についてはどう考えたのか、という点については、一切わかりません。


それでは、上記の報告書を見ていくことにします。


上記の(1-1)の資料は、原子力安全・保安院長から原子力安全委員会委員長に宛てたもので、「大飯発電所3号機及び4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する審査書を取りまとめたので報告する」、という内容です。

要するに、関西電力が安全性に関する総合的評価(一次評価)を行って報告し、その内容を原子力安全・保安院が審議して承認したので、原子力安全委員会にまわされた、という事のようです。

216ページもある大部なものです。本文は115ページまでで、残りは図・表でした。


とりあえず内容をざっと目で追い、気になるところは詳細を見る、という事にしました。

問題は主として、地震動と津波でしょう。


津波の方がわかりやすそうなので、津波に関する記述を中心に見て行きました。


ストレステストにおけるクリフエッジ

キーワードの一つに「クリフエッジ」というものがありました。

日本語で一番近い言葉は「崖っぷち」の様です。そこから一歩でも踏み出すと、崖から落ちるという、「安全の限界」です。

たとえば、津波に対するクリフエッジは、津波が高さ××(m)を超えたとき、△△の可能性がある、と表記されます。

△△には、もっとも危険度の大きな「炉心損傷(メルトダウン)」、「使用済み燃料の再臨界」があります。

福島第一原発では、1~3号機が「炉心損傷(メルトダウン)」に至り、水素爆発に伴い、多くの放射性物質が空中に放出されました。

また、震災当時は点検休止中であった4号機の「使用済み燃料の再臨界」が実は最も危険性の大きなものだという指摘があちこちから上がっています。

確かに、核燃料は、原子炉の中でエネルギーを出すように作られているのに、むき出しの状態で再臨界になり、エネルギーを放出したら、これは大変なことになります。

では、上記(1-1)の資料ではどのように書いているのか。

その個所を抜き出しました。

[ なお、T.P.とは、東京湾の平均海面高さ、SFPは、使用済み燃料を格納するピット(プールともいう)です。 ]

想定を超える津波に対するクリフエッジは、運転中の原子炉については、「設計津波高さ2.85mを約8.5m上回る津波高さ(ストレステスト実施前の設計津波高さ1.9mを9.5m上回る)T.P.11.4mにおいて、タービン動補助給水ポンプ等の浸水のため、2次系による冷却に失敗し、炉心の重大な損傷を防止するための措置が講じられなくなる可能性がある」とし、SFPについては、「設計津波高さ2.85mを約8.5m上回る津波高さ(ストレステスト実施前の設計津波高さ1.9mを31.4m上回る)T.P.33.3mにおいて、消防ポンプ用燃料の浸水のため、海水のSFPへの供給に失敗し、SFPにある燃料の重大な損傷を防止するための措置が講じられなくなる可能性がある」とする関西電力の評価は妥当なものと考える。


回りくどい言い方ですが、要するにこういうことになります。

●高さ11.4mを超える津波が来ると、運転中の原子炉がメルトダウンする

●高さ33.3mを超える津波が来ると、使用済み燃料ピットに格納してある燃料棒が臨界に達し、放射性物質を空中に撒き散らす

●上記のことは、関西電力が評価した結果であり、原子力安全・保安院はその通りである、と承認した


さらに、具体的なことを言えば、次のようなことになります。

高さ11.4mを超える津波が来ると、福島第一原発の1~3号機で問題になっているのと同じことが起こる。

高さ33.3mを超える津波が来ると、使用済み核燃料が臨界に達する。するとどうなるか・・・・福島第一原発の4号機についていろいろと言われていますね。

なにしろ、日本の原子力発電所について、そのような検討は、だれも真剣にした事がないのです。

何か起こるかわからないので、いろんな人がいろんなことを言うわけです。

関東・東北には人が住めなくなる

広島型原爆4000~5000発分の放射能が撒き散らされる

人類が経験した地球上最大の人災になる


さて、

「高さ11.4mを超える津波が来ると、稼働中の大飯原発の原子炉はメルトダウンする」
ですが、

関西電力、原子力安全・保安院はそのことを認めました。


メルトダウンの可能性は許されない

しかし、メルトダウンは絶対に困る、と誰でも思います。

関西電力、原子力安全・保安院は、そのような高さの津波は来ない、という見解です。
そうでないと原発を稼働できません。

それでは、津波の高さは××(m)以上高くはならない、と誰が言えるのでしょうか。

サル知恵はだめだ

次の様な論理がつかわれています。

・この地域の津波の痕跡や古文書の記録をもとに、最大でも××(m)に至らない

・津波の原因となる地震については、最悪でも××であり、その結果起こる津波高さは××(m)である


このような調査で本当にわかるのですか。大学教授や、原子力安全保安院、原子力安全委員会のメンバーは "それほど"賢い" のでしょうか。

自然に対して、人間が"サル知恵"を働かせて、何がわかるのですか。

たとえば、地震に関する知識は、あやふやなものを含めてもせいぜい2000年で、これは地球の年齢と比較するとほんの一瞬でしかありません。


"サル知恵"ができることは、無理なことはあきらめる、という事ではないですか。


さて、原子力安全・保安院は、上記のクリフエッジを妥当な評価と判断しました。

原子力安全委員会はどのように扱ったか

原子力安全委員会は、どうしたのでしょうか。

第7回臨時会議(2012.02.13)の速記録では、会議の最後は以下の様になっています。

○班目委員長 他に何かございますでしょうか。
よろしゅうございますか。今後の当委員会としての確認につきましては、別途、検討会を開催して確認を進めたいと考えてございます


「当委員会としての確認」は、「別途、検討会を開催」するのだそうです。

「なに、それ」、と言いたいところですが、心を落ち着けて、「検討会」がどうなったのかを探しました。


第15回 原子力安全委員会臨時会議 平成24年3月23日(金)

の議題は

(1)関西電力株式会社大飯発電所3号機及び4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する原子力安全・保安院による確認結果について

この議題と全く同じ表現のタイトルがある資料が添付されています。(第15 回原子力安全委員会 資料第1 号)


内容を見ていきます。

本件に関しまして、本年2月13日に原子力安全・保安院から報告を受け、当委員会として外部有識者にも参加いただいて、発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価検討会を5回開催し、検討を進めてきたところです。本日は、当委員会の見解(案)について審議いたします。

(中略)

それでは、資料第1号に基づきまして簡単にご説明させていただきます。

原子力委員会の見解(案)について審議する、という事です。


「資料第1号」というものが出てきましたので、のぞいてみます。

当委員会が要請した総合的安全評価は、何らかの基準に対する合否判定を目的とするものではなく、設計上の想定を超える外部事象に対して施設の潜在的な脆弱性を事業者自らが的確に把握し、様々な対策を行うこと等により、施設の頑健性を高め、これらの内容について技術的説明責任を果たすことについて、規制行政庁である保安院がこれらの評価結果を的確に確認することを求めたものである。

なるほど、はっきり言ってますね。

何らかの基準に対する合否判定を目的とはしない。

そういうことか。

合否判定するには基準が必要である。ところが、今まで使われてきた基準で、福島第一原発のあのような大事故が起こってしまったので、この基準は役に立たないことがわかった。

新しい基準は、そもそも規制省庁を作ろうとしている段階(まだできていない [2012/7現在])だから、現在は何もない。

そこで、まず電力会社は、

「施設の潜在的な脆弱性を事業者自らが的確に把握し、様々な対策を行う」
「施設の頑健性を高め」
「技術的説明責任を果たす」

ことが必要で、また

「規制行政庁である保安院は、これらの評価結果を的確に確認する」ことが必要である。

原子力安全委員会が確認したこと

それでは、原子力委員会は何をするかと言うと、

.....


よくわかりません。


3.2 当委員会の確認した内容 当委員会は、大飯発電所3号機及び4号機の総合的安全評価に関して、保安院の審査書、検討会での説明等により、一次評価の範囲内において、以下のことを確認した。

..中略...

その結果、当委員会としては、以下のように考える。

◎ 一次評価は・・・・、個別の原子炉施設について事業者による評価結果が提出され、規制行政庁による確認が行われたことは、一つの重要なステップである。

◎ 炉心損傷に至りうるシナリオとして、全交流電源喪失(SBO)を同定し・・・・東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、施設の頑健性を確認する上で、特に重要度の高いシナリオである。

◎ 緊急安全対策は、・・・・、炉心損傷・・・・の可能性を高める効果を持つ

◎ 緊急安全対策は、・・・・成功パスが成立する地震動及び津波高さの範囲を大きく拡張するものではないが、・・・・成功パスの成立性をより確実にする


原子力安全委員会が確認したことは4点ということです。

まず一番目の項目ですが、「一つの重要なステップである」って、どういうこと? よくありますね。「一定の成果が得られた」って。

「原子炉施設について事業者による評価結果が提出され、規制行政庁による確認が行われたこと」はいままでなかったんですか?

規制行政庁が安全評価をしたことがなかった?本当?

二番目の項目は、全交流電源喪失を考慮したことを高く評価してますね。いままでは、これが抜けていた、ということですね。

全交流電源喪失について、規制行政庁による確認をしてなかった。

三、四番目の項目は、「緊急安全対策はある程度の改善効果がある」という、内容のないコメントです。


しかも、後では、このようにも言っています。

 今般の評価によれば、成功パスが成立する地震動の上限及び津波高さの上限は、緊急安全対策以前と大差ない結果となっているため、合理的に達成可能な改善策が検討されるべきである。

「地震動の上限及び津波高さの上限」が問題になるような、つまり、大地震、大津波の時では、危険性は従来とほとんど同じである」ということです。

いままで、「大地震、大津波は起こらないから考えない」としてきたので、いまからそのような根幹部分にかかわる改善をしようとしてもできないのですね。


また、こうも書いてあります。

◎ 津波に関しては、成功パスの成立する津波高さの範囲をより現実的に特定するため、地形等を考慮したシミュレーション等により、津波の挙動等を適切に考慮すべきである。

「成功パスの成立する津波高さの範囲」については、「地形等を考慮」すると、「より現実的に特定できる」、つまり、もっと悪い評価になるはず、といってします。

肯定的に、おだやかに書いていますが、「今回の報告内容は、"地形等を考慮"していないので、"現実的"な値ではない」、と非難しているのです。

ただ、あまりはっきり書くと、再稼動できなくなってしまうので、反発を受けないように書いています。


とにかく、現在では、再稼働していいのかだめなのか、の基準がありません。


それで、政府は、原子力安全・保安院、原子力安全委員会の審議内容、地元や周辺府県市町村の意見、経済界の意見、等々を勘案して、再稼働OKと判断した。

西川一誠福井県知事は、政府が稼働する、と明言すればよい、といっていたので、結論が出ました。

ということは、11.4mを超える津波が来ると大飯3,4号機はメルトダウンする、ということに対して、野田佳彦首相、西川一誠福井県知事はそれを承知した、ということになります。


使用ずみ燃料の処理方法が宙に浮いたままです。

いずれなんとかなる、といって、ずるずると原子炉を運転してきました。

とんでもない厄介なものを、将来の世代に押しつけています。

国家予算の赤字を将来の世代に押しつけてはならない、という意見はありますが、使用ずみ燃料という厄介な荷物を将来の世代に押しつけているのが実情です。

大事なこと

大事なことを繰り返します。

・高さ11.4mを超える津波が来ると、運転中の原子炉がメルトダウンする

いままで、事故の可能性がある、という言い方は、電力会社も、政府機関も全く口にしませんでした。

このたび、とうとう公表することになりました。

「事故の可能性を評価しないと再稼働は認められない」と菅内閣が宣言したことは、素晴らしいことではないでしょうか。

事故のどさくさにまぎれて言ってしまったのでしょうか。
もう少し冷静になっていたら、"原子力ムラ"の抵抗にあって、このような条件はおもてに出なかった気がします。

今後はこうしましょう

今後、各地の原子炉の再稼働の動きが続々と出てきそうです。

そのときは、どのくらいの津波が来れば原子炉はメルトダウンするのか、が明らかにされるはずです。

「それでいいのか」、と自問自答しましょう。
「それでいいのか」、と質問しましょう。
この安全限界が明らかにされないときには、要求しましょう。



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