考えてみると=まじめ編=原発=


[次に進む]   [ひとつ前に戻る]   [考えてみると=まじめの巻=のトップに進む]   [ホームに戻る]


【7】大飯原発再稼動に関する福井県原子力安全専門委員会について (2012/7/12)

前回、【6】大飯原発再稼動について、について書き(2012/7/11)、そのなかで、福井県知事の判断に触れました。

もう少し詳しく考えてみたいと思います。

福井県の行動

福井県知事としては、地元の雇用と財政という観点と、福井県およびその周辺府県の安全性という両面を考慮せざるをえません。

大飯原発の再稼働を認めた、ということは、地元の雇用と財政の確保の方向に舵を切った、ということになります。

雇用:原発関連施設における雇用の創出は、雇用減少に悩む市町村にとって貴重であるのは確かである

財政:各種交付(規模の小さな市町村にとっては巨大な金額)のほかに、電力会社等からいろいろな名目で寄付金がある


では、安全性については、どう考えているのでしょうか。

ここで、福井県知事が、大飯原発の再稼働に関して、首相が再稼働すべきと判断したと明言すれば認める、ということを力説していたことを思い出します。
安全性について心配している様子は見られません。


原子力施設がある道府県には、原子力安全委員会などの組織があります。福井県には、福井県原子力安全専門委員会があります。

さて、福井県知事が再稼働に同意したのは、6月16日です。

野田佳彦首相は16日午前、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働をめぐり、西川一誠同県知事と首相官邸で会談した。西川知事は「主な電力消費地である関西の生活と産業に資するため、同意する決意を伝えたい」と述べ、原発の立地自治体として再稼働に同意する意向を表明した。

これを受け、首相は会談直後に枝野幸男経済産業相ら関係3閣僚との会合を開き、政府として同原発の再稼働を正式に決定した

[毎日新聞 2012年06月16日 10時45分(最終更新 06月16日 11時33分)毎日JPから引用]


福井県原子力安全専門委員会の行動に注目する

福井県原子力安全専門委員会のホームページを見ました。

最後の開催は6/10で、6/11には知事に報告、と書かれています。

では、知事に報告する直前の委員会の内容を見てみます。

●福島第一原子力発電所事故を教訓とした県内原子力発電所の安全性向上対策について (大飯3、4号機の安全性について)

内容は以下の様になっています。

  • はじめに
  • 第1章 福島第一原子力発電所事故等の状況
  • 第2章 福島第一原子力発電所事故を踏まえた国の対応状況
  • 第3章 関西電力が実施している大飯3、4号機の安全性向上対策とその確認結果
  • 第4章 本委員会の審議と総合的な見解
  • 第5章 今後の安全確保に向けて国等に対応を求める事項
  • 添付資料

「はじめに」には、以下の様な事が書かれています。

本報告書は、福島第一原発事故以降に事業者が進めてきた安全対策の実施状況と国が示した判断基準、大飯原発3、4号機の安全性について、本委員会の見解をまとめたものである。


つまり、関西電力が大飯原発3、4号機の安全対策をどのように実施したか、国が示した再稼働の判断基準は何なのか、そして、それらを勘案して、本安全専門委員会の見解は何なのか、をまてめたものがこの報告書である。


まず、国が示した再稼働の判断基準について見てみます。

2-2 原子力発電所の再起動に当たっての安全性についての国の判断基準

3つの観点で基準が書かれています。の

基準(1) 所内設備の安全対策として、16項目が示されています。

基準(2) 国が『東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震・津波が来襲しても、炉心及び使用済燃料ピットまたは使用済燃料プールの冷却を継続し、同原発事故のような燃料損傷には至らないこと』を確認していること

基準(3) 更なる安全性・信頼性向上のための対策の実施計画の明確化、また、今後の規制に迅速に対応し、また独自に必要な措置を見出だし対策するという事業姿勢が明確化されていること


基準(1)では、電源者の配備、ベント実施の手順・体制の構築と訓練の実施、発電所構内の通信手段の確保、等々、こまごまと書かれています。とくに難しい事はないので、本気で取り組めば達成できます。

基準(3)は、これからの取り組みで、やります、と言えば済む話です。

基準(2)が問題で、地震動と津波に対する安全性です。

地震動については、中越地震で柏崎刈羽原発で、想定最大加速度をはるかに上回る揺れが、原子力発電施設そのもので観測され、問題化しました。

ただし、私自身がデータを整理していないので、ここでは立ち入りません。時間があったら、この件について、続編を書きたいと思います。


地震に対する考え方

基準(2)で、具体的な数値が書かれています。

福島第一原子力発電所の想定津波高さが5.5m であったところ最大遡上高さ15m の津波に襲われたことを踏まえ、県内の原子力発電所においては、想定津波高さより9.5m以上高い津波に耐えられることを求めている。

本委員会は、平成24 年4月16 日、基準(2)について、具体的な確認手段としてストレステスト(一次評価)を用いた評価結果について国から説明を受けた。具体的には、大飯発電所3,4号機は、地震については・・・・(中略)、また、津波については想定津波高さ1.9m を9.5m 上回る11.4m の津波までは燃料損傷に至らないとの結論であった。


福島第一原発では、想定最大津波高さが5.5mのところに、15mの津波が来た。差し引き、9.5mであるから、大飯原発の従来の想定最大津波高さが1.9mだったので、それを9.5m上回る11.4mまで耐えることが必要。


こんなお粗末な計算は何ですか。福井県はそれでいいのですか。

福島第一原発の教訓は、従来の津波の想定が全く当てにならない、ということではないのですか。

想定の3倍もの高さの津波が来たのですよ。


野田内閣は、こんなお粗末な検討をしていたのか。

それを恥ずかしげもなく、大きな顔をして披露していたのか。


知らなかった。

うさんくさいとは感じていましたが、これほどとは。

関係4閣僚会議というのがあって、野田総理、藤村官房長官、枝野経済産業大臣、細野原発担当大臣の4人で、この4人で、相談して決めたんだって。

この4人で、「15m-5.5m=9.5m だっからさァ 1.9m+9.5m=11.4mだよ、ほら、簡単じゃん」、と鉛筆をなめながらやってたんだ。


第2章の「国の対応状況」というのは見当が付いてきました。

第3章の「関西電力が実施している安全性向上対策とその確認結果」は、いろいろ書いてあります。


第4章には、当委員会の見解が述べられます。

いろいろ書きたいことはありますが、もっともおかしなところを1点だけ書いておきます。

3-5 県が独自に指示した安全対策、のところです。


福井県原子力安全専門委員会のおかしな報告書

本委員会は、国とは異なる独立した視点で、事業者に具体的な対応を図るよう指摘している。これらについては、各章において述べているところであるが、県が独自に指示した事項および安全対策の概要をあらためて以下にまとめて示す。


「国の出した内容では不十分だから、福井県として、あらためて検討すべき事項を指示した」、というところですから、福井県原子力安全専門委員会としてはチカラが入っているところです。

4項目について書かれています。

書かれている内容は、4項目ともに似た形式ですので、表の形にまとめました。


項目 (1)設備面の安全向上対策の実施 (2)組織人員体制の充実 (3)途絶えさせない情報通信網の確立 (4)歴史的視点からの津波痕跡調査の実施
指示内容と思われる記述内容 県は、・・・・手段を確保することを求めた
・・・・の監視カメラの設置を求めた
・・・・点検を行うよう指示した
・・・・を求めた 県は・・・・を求めた 本委員会は・・・・事業者に対し、若狭地域における津波痕跡調査を行うよう指示した
確認結果と思われる記述内容 本委員会は・・・・完了していることを確認した
具体的には・・・・を確認した
本委員会は・・・・すべて完了していることを確認した
具体的には・・・・を確認した
本委員会は・・・・完了していることを確認した
具体的には・・・・を確認した
事業者は・・・・を行い・・・・とする調査結果をまとめた
保安院の意見聴取会では・・・・との見解が示された

要求内容については、4項目ともに、「指示した」、または「求めた」と、明快に述べてします。

では、結果はどうだったのか。

最初の3項目は、「本委員会は・・・・を確認した」と、明快に述べています。

ところが、最後の項目では、「本委員会は・・・・」がありません。関西電力がどうした、という記載に終わっています。

「津波痕跡調査を行いなさい」に対して、「行いました。結果はこうでした」と報告されたとき、ダンマリなのですか。

結果が「よし」なのか、「だめ」なのか、を言わずに、「関西電力はこういう調査結果をまとめた」、「関西電力はこう言った」で終わるのですか。

なぜ、この項目だけ、福井県原子力安全専門委員会の意見がないのですか。


想像はつきますね。


福井県原子力安全専門委員会は、要求は出したものの、結果がそれでいいのか、悪いのか、判断できないんでしょうね。

もっとはっきり言うと、判断しないことによって、責任を負うことを逃げたのでしょう。

過去のわずかの期間の古文書の記録や、わずかの地点のボーリング調査ではとうてい安心できない。古文書の記録や、ボーリング調査からは想像できない大きさの津波が来る可能性があるのは確かで、そうなったら OK を出した責任を追及される。

東日本大震災の前なら、自分が生きているうちはそんなことは起こらない、とたかをくくっていられたろうが、いまでは、本当にいつおこるかわからない。

かといって、本気で心配しだしたら、何メートルの津波まで対策すれば OK なんて、とても言えない。

「15m-5.5m=9.5m、1.9m+9.5m=11.4m」なんてことは、学者とかエンジニアとしては、とても恥ずかしくて言えないでしょうね。

それで、ここはひとつ、ノーコメントにしちゃおう、ということですね。


福井県としては、雇用もほしい、交付金・寄付金もほしい、税収もほしい。
安全もほしいが、これはきりがないから、国が責任をもつという言葉があればいいということにしよう。


他に、再稼働を控えている原発がいくつかありますが、きっと同様なのでしょうね。


福井県原子力安全専門委員会のもう一つのおかしな議論

こうして別の事例を見ると、またまたおかしなことがわかりそうです。

偶然目にした1件について書いておきます。


第65 回福井県原子力安全専門委員会

平成23 年3月25 日(金)

議事概要より

・ 一番大事なのは、今まで、高度な調査を行い・・・・予測してきたが、それを超える可能性は否定できない・・・・津波についても同様に、これからは想定外のことも視野に入れてリスクを消していく、ということが必要になると思う。

・ 奥尻島沖地震と、日本海中部地震の津波は、あの時点では想定されていた範囲内だったのか。

・ それについて、私はコメントできる立場にない・・・・、あの高さ(10m を超える高さ)について想定していたかについては、今情報を持っていない

・ 「想定外の想定」という、大変難しいことが必要になる・・・・

・・・・・2千年とか、1万年に一度といった低頻度の巨大災害というものについてどこまで対応できるか、というのが地球科学的な問題と、それを(耐震安全性の検討において)どう採用するのかという問題との関係になると思う。

・先ほど、敦賀3,4号機での津波高さが約5mと説明されたが、・・・・どういう風に決められたのか、教えてほしい。

・日本原電の方から説明させていただく。・・・・具体的には、M7.75 という波源を北から南まで、いろんな所に置いて計算した。


議論が全く深まっていません。

「想定外」をどうするのか、と、重要なテーマが出てきているのに、うやむやで終わっている。

このことについて、掘り下げて議論することを、意図的に避けている、と思ってしまいます。

地震の大きさをM7.75と想定して津波の高さを評価した(これは日本原電の話ですが)、ということに至っては、笑ってしまう。

笑いごとではないはずですが。

日本海で起きた大きな地震としては、気象庁の「過去の地震・津波被害」によると、地震の上位二つは以下の様になっています。

昭和58(1983)年5月26日  日本海中部地震 M7.7

平成05(1993)年7月12日 北海道南西沖地震 M7.8

M7.75とは、最大地震の上位二つの平均値を取ったのですかね。まさかね。やるなら、[最大地震+α] にしないといけません。

北海道南西沖地震は距離が離れているので無視して、日本海中部地震のM7.7に対して、余裕度を持たせるために、0.05だけを加えてM7.75を想定したのでしょうか。


何というか、・・・・ ウーン、とただうなるだけ。



[ページの先頭に戻る]