日本語のあれこれ日記【35】
[2018/5/30]
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動詞のリストを作る
前回のこのシリーズの記事を書いたのが4月22日でした。
今日は5月30日。ずいぶん時間が経ってしまいました。
その間、何もしなかったのではなく、ある作業に没頭していたのです。
動詞のリストを作っていました。
この副次的な作業について、エネルギーをかなり使いましたので、記録のために書き残しておきます。
動詞のリストが欲しい
いままで、動詞中心に古代の日本語(原初日本語)について考えを進めてきました。
その時に痛感したことは、動詞のリストが欲しい、ということでした。
たとえば、自動詞と他動詞が対応する例として、寄る・寄す、成る・成す、残る・残す、などがあります。
変化部分(活用部分)で、"る"と"す"が対応しているように見えます。
でも、このような例がいくつあるのか、については見当がつきません。
付く、立つ、などは終止形は同じで活用の種類が異なります。
"る"と"す"が対応している例と、終止形は同じで活用の種類が異なる例はどちらが多いのか。
今までのように、私が思い出すことかできた動詞、あるいはいろいろな言葉を辞書で引いて、そのなかから新たに見つかった動詞などを対象にしている内は、計量的な評価ができません。
もし、動詞のリストがあれば、量的な比較も出来ます。
また、自動詞と他動詞の比較についても、他の法則があるでしょう。
主な法則はこれとこれ、という事がある程度推測できそうです。
リストをどのように作るか
古代日本語語動詞辞典のようなものがあれば一番いいのですが、見つかりませんでした。
動詞をかたよりなくリストアップするにはどうしたらいいか。
辞書から抽出する方法以外には見つかりませんでした。
手元の辞書を見ると、たとえば角川全訳古語辞典は本文が約1,500ページあります。
一日でどのくらいチェックできるのか。
ざっと見て、動詞だけを拾い出す作業です。ただし、仮名表記、漢字表記、活用の種類は取り込まなくてはなりません。
1日で20ページはいけるだろうか。
としても75日。2か月半ですね。これは大変。頑張って1日30ページとしても50日。2か月近いです。
改めて辞書編集の大変さを感じました。
一番ページ数が少ないものとして、小西甚一著の「基本古語辞典 [新装版]」が585ページです。
これなら1日20ページとして1か月弱。1日30ページなら20日ほど。
編集方針として、教科書と大学入試問題から、主として出現頻度をもとに、改訂後で6241語を収録したと書かれています。
具体的な作業方法
この辞書のページをばらしてスキャン入力し、画面上でチェックしていくことにしました。
なにしろ視力が低下して老眼鏡が手放せない状況ですから、印刷された辞書の小さな活字には耐えられません。
対象は動詞だけですが、それでもかなりな数でした。
だいたいにおいて、単語は名詞が多く、動詞は全単語の10%以下と予想していたのですが、結果は、1342語になりました。
これでも、複合動詞はおおむね除いています。複合動詞まで含めたら1500語くらいでしょうか。全体の1/4ですね。
除いたのは複合動詞と漢語+"す"という形の動詞です。
複合動詞は、それを構成する個別の動詞がその前にあるはずですから、原初日本語としては考えなくて良いだろう、ということです。
漢語+"す"という形の動詞は、当然ながら漢語が持ち込まれた後にできた言葉です。
原初日本語のイメージは漢字が持ち込まれる以前を想定していますから、これも対象外にできます。
ただ、その線引きは簡単ではありません。
たとえば、"思し召す(オボシメス)"は成り立ちとしては複合語でしょうが、意味としては"思して召す"と理解するのではなく、1語として扱うのが正しい気がします。
その結果、あるものは複合語として除外し、あるものはリストに含める、という混乱が残りました。
漢語+"す"という構成の語について判断に迷ったときには、「改訂 久松潜一監修 新潮国語辞典―現代語・古語―」において、見出しに漢語と和語がそれぞれカタカナ、ひらがなと区別して表記されていますので、それを基に判断しました。
ただし、厳密に考えるとなかなか難しいです。たとえば、梅(ウメ)、寺(テラ)は中国あるいは朝鮮から持ち込まれたものですから、その当時は外来語だったのでしょう。このあたりまで考え出すとキリが無いのです。
"愛す"は成り立ちから見れば、漢語の"愛"+"す"です。"具す(グス)"、"屈す(クッス)"も同類です。
判断に迷ったときには上記の辞書を基に区別しましたが、結果的には"愛す"、"具す(グス)"、"屈す(クッス)"はすべて入れました。
このあたりはまだ迷いがあります。今後は思い切って削除するかもしれません。
問題発生
進めていくと、すぐに一つの問題に気づきました。
基本的な動詞に必ず入れるべきものが漏れているのです。
開(ア)く、余る、歩む、祈る、癒す、置く、起く、などなど。
もしかすると、現代語との差が少ない単語は収録しなかったのかも知れません。
いずれにしても、基本的な動詞をリストアップしようとする点では困った事です。
どうするのか、をなかなか決められず、一旦最後まで進めて、別の古語辞典で補うことにしました。
別の古語辞典といっても、ページ数が多い物は困ります。
偶然、図書館で1冊見つけました。辞書は通常は貸出禁止なのですが、これはコンパクト版ということなのか貸し出し可能でした。
北原保雄編 全訳古語例解辞典 コンパクト版 小学館2001年1月
1000ページほどの物で、これをページを繰りながら、漏れている動詞を補強していきました。
これでもまだモレがあるのが分りました。
集まる("集む"(集めるの意)はある)、囲ふ("囲(カク)む"はある)、清(キヨ)む("清まる"はある)、崩す("崩る"はある)、などなど。
自動詞形、他動詞形を想像して見つかった物です。
ひとまず完成とする
たまたま気がついた動詞は他の辞書を参照して追加していったのですが、感触としてはまだまだありそう、というところです。
ただし、今以上にモレをなくすためにはますます時間がかかります。
その言葉の用例の初出時期を調べる事も本当は必要であることはわかっています。
「精選版日本国語大辞典」には、用例についてその作品が書かれた時期を年又は世紀で表示していますので、これを取り入れたいのです。
この作業は、たぶん必要になった時に、必要な言葉について、その都度、少しずつ進めることになるでしょう。
(すでに今までの作業で、私はすっかり疲れてしまいました。)
本当に辞書編集って大変ですね。