考えてみると=まじめ編=原発=


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【10】東北電力・女川原発の津波対策と平井弥之助 (2012/8/23)

平井弥之助による津波対策

東北電力・女川原発が東日本大震災の時に被害が軽微な範囲にとどまり、地元住民が原発敷地内に避難した、というニュースが流れました。

甚大な被害を出した東京電力・第一原発と比較して、その差が際立っています。


最近、次のような報道を目にしました。

たいへん重要な内容だと思いますので、この情報が埋もれないように、ここに記録しておくことにします。


情報源は以下です。他のネットの書き込みで、「この新聞報道で初めて知った」、ということが書かれていたので、この記事が最初の指摘でしょう。

東京新聞 2012年3月7日

記事の内容は、一言で言うと、女川原発の建設にあたって、ある技術者が強く津波対策の重要性を主張して、そこまでは必要ない、という東北電力を押し切る形で、十分な津波対策がほどこされた、というものです。

平井弥之助氏の紹介記事

以下に、その内容をまとめます(文責:当サイト管理人)。

その技術者は、平井弥之助氏です。東北電力・副社長を退任後、電力中央研究所に移り、そこで、女川原発の建設計画に直面しています。

平井氏の実家は宮城県岩沼市にあり、仙台藩に伝わる記録では、近所の神社に、慶長津波が到達した、とされるそうです。
東京帝大の後輩の大島達治氏によると、平井氏が「貞観津波くらいの大津波に備える必要がある」と言っていた、ということです。
1970年に国に提出された女川原発1号機の原子炉設置申請書では、周辺の最大津波高さの想定値は、3m だそうですが、平井氏は、敷地の高さを15m と主張したとのこと。

確たる根拠はないが、経験と直感による数値だったのではないか、というのが大島氏の印象でした。

結局、14.8m と決定し、建設が始まりました。

東日本大震災では、女川原発付近の津波の高さは、12.5m であり、地盤が1m 沈んだが、災害は軽微でした。

大島氏によると、平井氏は常々こう語っていたとのこと。
「技術者には法令に定める基準や指針を超えて、結果責任が問われるんだ」


東電・福島第一原発では、貞観津波クラスが発生する可能性は何度か指摘されましたが、結局、「貞観津波は、どの程度の津波だったのかまだ明確ではない」という東電の判断により無視され、このような大事故に至りました。

今回の東日本大震災に伴う大津波に襲われた4原発

今回の東日本大震災に伴う大津波が押し寄せた地域には、北から順に、女川(宮城県・東北電力)、福島第二(福島県・東京電力)、福島第一(福島県・東京電力)、東海第二(茨城県・日本原電)、の四つの原発があります。

津波対策と津波被害について、簡潔にまとめると次のようになります。


原発 東日本大震災における被害状況 備考
女川 最初の建設時に、貞観津波の様な大津波を想定しなければいけない、と主張してそれが認められ、それに従って設計してあったため、今回の津波に耐えることができた。
福島第一 最初の建設時では、今回の様な大津波は想定せず、また、その後何度か"貞観大津波"クラスの津波の発生の可能性が指摘されていたが、東京電力はそれを無視したため、今回の大津波で大事故が発生した。
福島第二 4系統の送電線のうち3系統が機能停止となった(ただし、そのうちの1系統は点検のため地震当時はもともと停止中だった(*2a))が、1系統(富岡線1号)が生き残った。原発は1~4号機全てが通常運転中であり、地震により緊急停止した。津波により、非常用ディーゼル発電機、配電系統設備、残留熱除去海水ポンプ等が浸水したが、残った機器をやりくりし何とか冷温停止に至った。ギリギリのところで大事故を免れた。 参考:原子力安全推進協会 「東京電力(株)福島第二原子力発電所 東北地方太平洋沖地震及び津波に対する対応状況の調査及び抽出される教訓について(提 言)」3.4.1 地震による被害 の項
2014/3/13 修正 (*2)
東海第二 最初の建設時の対策(防潮堤など)に対して、2年前に茨城県が津波の再評価を行ったところ、従来の想定よりも高い津波が発生する可能性が出たため、県は日本原電に連絡し、日本原電が対策工事を始めて大部分が完了したときに大津波が発生し、ギリギリのところで大事故を免れた。 この東海第二の件は、すでに このシリーズの【2】 で詳細を紹介しています。

第19回原子力委員会定例会議議事録 2012年5月22日(火)10:30~11:30

(内閣府原子力委員会のホームページから、[会議情報]--[定例会議・臨時会議]とたどると読むことができます)

・・・・

次に被災自治体調査に加えて津波の被害を受けながらも冷温停止状態を確保することができた女川原子力発電所と東海第二発電所についても調査を行っております。

・・・・

女川発電所においては、立地に当たって貞観津波、慶長津波を対象とした評価を実施し、また伝承や言い伝えも注視した上で、敷地の高さを設定していたということを確認いたしました。

また49ページから、東海第二原子力発電所について記載しておりますが、茨城県のハザードマップでの手法での再評価により、土木学会の手法を上回る高さが評価されたことから、自主的に(*1)津波対策を実施し、新たに設けられた防護壁や水密化により、非常用ディーゼル発電機の機能を維持することができたと聞いております。

福島第一原子力発電所では、事故以前のこれまでの調査などにおいて、津波対策について見直す契機があったのではないかと考えられております。

上記の発言者は、全国原子力発電所所在市町村協議会・嶽事務局長です。

この協議会は、原子力発電所をもつ(予定も含む)市町村を会員として構成される任意団体です。補助金狙い、という指摘も一部でなされており、基本的に原発推進の立場を取ります。

ですから、福島第一が問題である、と言うと、他の原発も疑問視される、という心配もあるでしょうが、さすがにそうは言っていられなかったようです。別の見方をすれば、福島第一だけが例外的に悪いのであって、他は大丈夫、というアピールをしたかったのかも知れません。

結局、明暗の分かれ目は?

いずれにしても、「公的に認められた方法で求めた津波高さの想定値」に対して、"それしか対策しなかった"ところと、"それとは別に、独自の判断で対策を強化した"という違いが明暗を分けることになった、ということです。



(*1) 日本原電が自主的に対策した、という言い方をしていますが、本当は、県から電話で、「津波の高さが今までの評価より高い値が出た。再検討してもらいたい」という要請があって(正確な文言は不明です)対策したものです。

「げんでん東海特別号(平成29年3月)」という新聞の折り込みの中で、"報告会で頂いたご質問"と"その回答"の欄の中で、以下のような一節がありました(p.4)。

(途中略)2台のDG(このサイトの編集人の注:ディーゼル発電機)が津波の被害を受けなかったことについては、茨城県の津波評価(想定最高潮位標高5.72m)を受け、津波対策としてDGの冷却用海水ポンプ等のエリアについて標高6.1m)の防護壁を設置していたためです。

どのような状況かは不詳ですが、以前に、県からの津波評価結果の連絡があったとき、すでに日本原電社内でも津波高さの見直しが行われていた可能性がある、というようなことを聞いた記憶があるのですが、防護壁は単に県からの情報提供で高くした、というのが実情のようです。[追記:2017/4/21]


(*2) 前回の記述では、この欄は以下の様な記述でした。

この項は、2012/09/10に追記した。参考:国会事故調査委員会報告書

しかし、2014/3/13再確認時にはこの資料は別の位置に移動しており、また前回確認した内容は今回は確認できなかったため、参考資料の情報を現在の内容の様に修正しました。また新しい参考資料と照らし合わせて、(*2a)と記した追記を行いました。

[追記:2017/6/4] この欄のリンク先について、2017/6/4に確認したところ、資料の位置が移動していましたので、リンク先アドレスを更新しました。内容は当該ページについてざっと見たところ、変更はないようです。



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