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[2019/2/19]
諭吉ホログラム・ベンチマーク
高倍率接写に関してネット情報を探していると、"諭吉ベンチ"、あるいは"諭吉ホログラム,ベンチマーク"というものが目にとまりました。
"諭吉"とは1万円札のことです。
1万円札の表側の左下にホログラムが印刷されていて、その中に、"NIPPON"の文字がいくつかあります。その一つ(おそらく一番小さい文字サイズのもの)の字体が微小な正方形を並べたものであり、一つの正方形は一辺が10μmで、それが1μmの空隙をおいて配置されている、というものだそうです。
"一番小さい文字サイズ"というのは間違いで、"二番目に小さい文字サイズ"、が正しいので訂正します。[2018/2/21]
きわめて微細な構造で、しかもそのサイズが分かっているため、高倍率接写のベンチマークとして利用されているものらしい。
試しにやってみると、難しいのですが、自分の撮影環境の欠点がよく分かります。
何が問題なのか、何が不足しているのか、などということが浮き彫りになる、と実感しました。
やってみました
まず結果から。10日ほど、ああでもない、こうでもない、といろいろとトライして、いちばんうまくできたものです。
写真1 静止画
写真2 動画の再生画像から
撮影条件は以下です。
・レンズはNikkor 28mm F2.8(絞り環のある旧型)、 撮影時はF5.6に絞る。
・ベローズ(PB-6)を最大限に伸ばし、レンズはリバースする(リバースリングを使用)
・カメラはSony NEX-C3。ベローズには接写リングなどを60mmほど付けるが、カメラは三脚で保持し、ベローズとは接続しない
・シャッターは10秒タイマーを使用し、シャッターボタンを指で押したときの振動を除く
まず、カメラの保持ですが、ベローズを用いた撮影では、ベローズに直接取り付けるのが普通です。今回はカメラがSony NEXなので、マウントアダプターを使ってベローズに取り付けるのが普通の使い方でしょうが、それでははっきりした画像になりませんでした。
最初に疑うのはシャッターショックです。実際に、カメラのモニター画面に見えている画像と比べて、撮影した結果の画像は確実に精細度が落ちています。
それなら、カメラを三脚で保持するのが良いだろう、という考えで、やってみると確実に画質が改善しました。
縦走りフォーカルプレーン・シャッターなので、カメラが垂直方向に振られるということなのでしょう。
このとき、動画も試しました。動画の方が画像が高精細に見えます。
上の写真2で動画の1カットを載せました。
わたしの撮影では、動画は静止画と比べて明るく写ります。この明るさの違いがまだうまく取り扱うことかができなくて、今回の例では、写真1は画像処理ソフトで明度とコントラストを動画に合うように調整しています。
写真1と2では、写真2のほうが高精細に写っているように見えますが、その違いがどういうことなのか、まだ分かっていません。
できれば動画をここに含めたかったのですが、やり方がまだ分かっていないので、宿題とします。
レンズについて
50mmレンズとして、引き延ばし用のEL-NIKKOR 50mmF4.0を試しましたが、28mmレンズの方が結局は高精細な画像がとれました。拡大率の差が大きい、ということでしょう。
できれば28mmの半分の14mm位のレンズで試してみたいのですが、絞りをマニュアルで設定できるレンズがまだ見つかりません。
レンズのリバースについて
レンズの向きを逆向きにする、というもので、光路を考えると拡大接写ではリバースがよい、というのはイメージとしては分かります。
ではどれほどの違いがあるか、というと、以外にその差は小さい、という印象でした。
特にEL-NIKKOR 50mmF4.0ではほとんど同じです。レンズ構成がほぼ対称形になっているのでしょう。
拡大率
上の写真1、2の撮影拡大率を確認するために、次のような定規を取り出しました。
写真3 定規
そして、この定規を一万円札の位置に置いて、光学系は変えずに撮影しました。
写真4 定規の拡大撮影
写真3の下側にあるドットは1mm間隔で、その部分を拡大しています。ドットが4個見えます。
写真4はトリミングしていません。NEX-C3のイメージセンサのサイズは15.6x23.5mmです。写真4をある倍率に拡大してサイズを実測すると、画像全体の高さが90mmで、ドット間は65mmでした。
従って、1mmの間隔は、65/90*15.6=11.3、つまり拡大倍率は11.3ということになります。
ちなみに、一つ前の記事で書いたレンズの公式からこれをチェックして見ます。
撮影対象の一万円札とカメラボディのイメージセンサ(とおぼしき)位置は約42cmでした。
従って、a+b=(2+m+1/m)・f という式を当てはめると、420=(2+m+1/m)・28 となります。従って、m+1/m=13。
これを解いて、x=12.9
倍率の値として、1.6ほどの差があります。計算値は実測値より14%ほど大きな値になっています。
この違いは大きすぎます。
考えてみると、計算に使った値の誤差はよく分かりません。
被写体とイメージセンサとの距離の42cmは5mm位の誤差はありそうです。
レンズの焦点距離にも誤差はあるようです。
昔カメラ雑誌で読んだレンズのレビュー記事で、たとえば50mm F1.4が焦点距離の実際は51.2mmだった、とか(数字はいい加減です)の例があります。
そこで、レンズの公式で使った数値を、誤差があるものとしてどのように変えたら、実測値の11.3倍の値になるか、ちょっと試してみました。
42cmを40.2cmとし、レンズの焦点距離を30mmとすると、ちょうど11.3という結果が出ます。
42cmが1.8cm違っている、というのは考えにくいし、NIKKOR 28mmレンズの焦点距離が実は30mmだった、などはまるで起こりそうもありません。
もしかして、レンズをリバースすると焦点距離は変わるのでしょうか。
ネットのどこかで、光路を逆向きにしても空気中であれば同じ、という記述があったような気がしますが、定かではありません。
改めて、レンズをリバースした時の焦点距離についてネットを探してみると、記事が一つ見つかりました。
roukanomushiさんのブログ「廊下のむし探検」の広角レンズを用いた接写の仕組み
Micro Nikkor 55mm/2.8でのリバースしない時としたときの焦点距離は、それぞれ、53.6、52.0という値です。
リバースするとレンズの焦点距離が変わるのですね。
また、焦点距離の公称値である55mmとは結構違いがあります。
その例ではリバースすると焦点距離は短くなっています。わたしのケースでは、正確ではありませんが、どうも焦点距離はリバースによって長くなっている可能性が高い。
この件についてあまり深入りはできなさそうです。リバースすると焦点距離は変化する可能性がある、ということでとどめておきましょう。
諭吉ホログラム・ベンチマークの法的な問題
紙幣の撮影とネット公開について、法的に問題があるのかどうか気になったので、問い合わせしました。
日本銀行に電話をかけると、法的な問題は財務省に問い合わせください、とのことで、財務省のホームページを開くと、「お札に関するよくあるご質問」のページがあり、問い合わせ先の電話番号があったので連絡を取りました。(2018/2/16)。
電話は理財局広報課という所に回されました。[この部署名のメモが後でみつかり、この1行を追記 2018/3/2]
その結果、紙幣全体を撮影するのは偽造に結びつくので禁止されているが、わずかの部分の撮影なら問題ない、とのことでした。その際、撮影データはきちんと管理してください、との一言がありました。
いろいろと撮影する中で、全体を撮影したものがあったり、あるいは部分の撮影をつなぐと全体が復元される、ということがあったり、などが予想されるからだろう、と解釈しました。
諭吉ホログラム・ベンチマークのように、縦横が数ミリ程度の範囲の撮影では問題無いのでしょう。
ホログラムの詳細構造が分かってしまう、という考えもあるかもしれませんが、調べれば誰にでも分かるものであり、またこれほど緻密な構造であると分かれば、偽造する気は失せるでしょうね。