【2】習作ならびに見えてきた課題


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[2019/1/31]

とりあえず撮ってみる

とりあえずいくつかマクロ撮影してみて、どのような撮り方がいいのか、ということを考えることにしました。

なお、マクロ撮影で倍率が高いと、被写界深度が浅くなります。

それを補うために、depth stacking とかfucus stacking などと呼ばれる技法があります。

日本語では"深度合成"という言葉を使うことが多いようです。

ピントを合わせる位置を少しずつ変えて複数カット(5枚とか10枚とか20枚とか)を撮影し、コンピュータで画像合成するというものです。

深度合成は以前にやったことがあり、combineZPというフリーソフトを使ったので、今回もそれを使うことにしました。

ペローズは必要だろう、ということで、Nikon PB-6という機種の中古品を入手しました。

そのほかは、あり合わせの機材を使って、試し撮りのレベルから始めて何点か撮影したものが以下です。

なお、カメラはソニー NEX-C3、レンズは手元にあったシグマの50mmマクロ(絞り環のある旧型)、アサヒペンタックスのSuper-Takumar50mmF1.4(今から50年くらい昔に父親が購入したもの)などを使っています。習作と言うことで、どの写真はどのレンズで撮ったか、を記録していません。

習作1 事務用はさみ

写真 1

12カットの合成です。

この程度なら、マクロレンズを使って1カットで撮れそうですね。

写真 2

これは、ある1カットを抜き出したものです。

上側の歯先の右側と、下の歯先の中央部分にピントが合っています。

写真 3

上のような事務用はさみを撮影しています。

習作2 事務用はさみその2

写真 4

上のはさみを刃先の方から撮影しました。8カットの合成です。

写真 5

ある1カットは上のようなもので、浅い被写界深度の程度が分かります。

この撮影では撮影倍率はあまり高くないので、被写界深度が極端に浅い、という所まではいっていません。

深度合成した写真では、わかりにくいかもしれませんが、ピントが合っているところと合っていないところが縞模様になっています。撮影カット間のカメラ移動ステップが大きすぎたものです。

写真 6

縞模様の様子をわかりやすいように、ボケた部分を四角の赤線で囲いました。

左端の楕円で囲んだ所には、変な影が出ています。おそらく、8カット撮影する間にカメラか被写体がズレて、それを深度合成の時に救済できなかったものと思われます。

画面の左端に不規則な影が出ていますが、これもカメラか被写体のズレが原因かと思います。

画面の上端付近で、大きく画像が乱れていますが、これはこの部分にピントが合ったカットがなかったためと思います。


カメラ移動ステップが大きすぎたので、移動ステップを小さくして再度撮影しました。

写真 7

28カットを合成しています。

画面の上端付近での画像の乱れは解決できていません。

遠くの場所にピントを合わせるためにはレンズを被写体に近づけなければいけませんが、刃先がレンズに接触する手前が限界です。

奥行きの深い被写体の場合、深度合成に限界があるということがわかりました。

写真 8

通常はこのように、トリミングするのでしょうね。

それにしても、写真 3 のハサミの先端がこのように写る、ということは想像できませんでした。マクロ撮影の面白いところです。

"想像できない"といっても、本当はカラーバランスを無視していることも影響しているのは確かです。照明のやり方も含めて今後の課題です。

習作3 ボールペンの先端

写真 9

13カットを合成しています。

写真 10

これは、レンズに近い部分にピントを合わせた1カットです。

写真 11

これは、ボール付近にピントを合わせた1カットです。

直径0.5mmのボールが画面の短辺の約1/5のサイズに写っています。NEX-C3のイメージセンサーのサイズは約24x16mmですから、0.5mmが3.2mmに結像していることになり、撮影倍率は6倍といったところでしょうか。

撮影倍率はなんとなく10倍位を目安に考えていました。この撮影では50mmレンズを使い、ベローズは最大限度まで伸ばしているので、もっと短焦点のレンズを使うことが必要です。

24mmとか28mmあたりでしょうか。

習作4 ボールペンの先端その2

写真 12

14カットを合成しています。

合成処理はうまくいっています。

写真 13

これは、ボールを支える金属の円錐形の中央あたりにピントを合わせた1カットです。

分かったこと

実際に撮影して分かったこと、感じたことをまとめます。

(1)ぶれ対策

最初は三脚にスライダーを取り付け、それにペローズをのせるとともに、被写体も手近なもので支えて撮影しました。

三脚にはギヤ付き雲台を取り付けてあって、非常に振動が発生しやすい環境でした。

通常、このような場合にはシャッターにディレイを設定します。NEX-C3ではディレイタイマーとして2秒と10秒の選択です。最初は2秒のディレイを設定しました。シャッターを押したときの振動は2秒くらいで収まり、その後シャッターが切れるという予定でしたが、2秒では不足します。やむなく10秒にしました。1カット撮影するたびに10秒の待ち時間が発生します。効率的な撮影という点では問題になります。

実際、三脚の一部を指先で軽く叩くと、5~6秒くらいかかって振動がようやく収まるという状況です。

撮影台とでも言うような、がっちりした板の上にベローズと被写体をのせる、というイメージのものが必要だ、と感じました。

(2)ピント位置の変更のための微動装置

ピント位置を少しずつ移動するのに、ベローズのベース部の回転つまみを回すという方法にしていました。移動ステップはモニター画面を見て、おおまかに、ピントが合っているところが半分くらい重なる位、という目安でした。たとえば、奥行き10mmの被写体に対して、被写界深度が1mmで、その半分ずつピント位置を変えるとすると、1回の移動ステップ幅を0.5mmとして20カットを撮るということになります。

今回、改めて調べてみると、ベローズのベース部回転つまみを半回転、つまり180°回転させると、ベローズの移動幅は13.8mmでした。1mm移動させるには13°ですから、0.5mmに対しては6.5°です。

6.5°というのは小さいですね。90°の角度を14ステップで進むという程度です。時計の分針は角度が90°で時間は15分ですから、ほぼ、分針の1分の角度を1ステップとして回転させることになります。

回しすぎると戻す必要があります。そうなるとバックラッシュとガタが組み合わさって左右にぶれるのです。左右のズレは深度合成ソフトがある程度は調整するのですが、合成の過程で不完全な部分ができやすいです。

(3)被写体の保持のための粗動装置

被写体をピントが合う位置に固定する必要があります。この位置合わせがなかなか難しい。画面に入る領域はたとえば5円硬貨の穴くらいの大きさです。その位置に被写体を移動するのが意外に手間取ります。被写体に近づく・遠のくという方向はベローズでやりますから、光軸に対して直角で水平方向の位置づけと垂直方向の位置づけが必要です。

上記の(2)で書いたピント位置の変更のための微動装置まで精密な動きは要りませんが、連続して動かす構造を利用したいところです。

(4)照明

今回は近くにあったLEDライトで被写体を照らしました。普通の照明用なので、色温度などは全く不明です。本来は写真用のLEDライトを使うべきでしょう。

適当にライトを当てたので、上の写真の9~11のように、金属を研磨したような溝が過度に強調されてしまいました。

写真 14

拡大率を大きくした例です。太さ1.2mmのボールペンのボールを撮影したカットのボール付近を切り出しています。ボールに周囲のものが写ってしまいました。

明るくて丸いのは照明のライトで、その笠まで見えています。その右下に円弧状に写っているのは文庫本の背表紙です。たまたま書棚の前で撮影したので、書棚に並べた本の背表紙が写ってしまったのです。ポートレートの撮影で、顔をアップにした時にモデルの瞳にカメラマンの姿が映ることがありますが、それと同じようなものです。また手前にもいろいろ名ものがごちゃごちゃと写っています。

周囲を平均的に照らす照明(環境光)と、強調のための照明(スポットライト)の二つがあったらよかった、と思います。環境光は半球状のものが理想です。

(5)撮影レンズ

レンズの選択も重要です。

ベローズの長さはおおよそ200mmです。カメラを取り付けるのに接写リングをかませていますが、それでも被写体とカメラ(具体的にはイメージセンサー)との距離は300mm程度が限界でしょう。その場合、拡大率は、50mmのレンズでは約4倍、28mmのレンズなら9倍弱、24mmのレンズなら10倍強くらいになります。この計算については後の記事で書きますが、どうも24mmとか28mmのレンズが必要になります。

普通の広角レンズは文字通り広い視野を平均的に高い解像度で形のゆがみや色の収差を減らす様に設計されているために、狭い範囲を写すマクロ撮影向きではありません。しかし、マクロ用のレンズではこのレンジのレンズはかなり特殊なものしか見つからないのです。

(6)カメラ

最初はソニーのNEX-C3を使いました。軽いこと、モニターがチルトできることがメリットでした。

一般的に、ほとんどライブビューで撮影するのでミラーショックは問題になりませんが、シャッターショックは大問題です。今回の撮影で、NEX-C3では撮れた画像を見ると画像のぶれは目立たないのでシャッターショックの問題は出ていないようです。

写真は出していませんが、フルサイズの一眼レフではどうかということで、手元にあるNikon D600で撮影したことがあります。その結果は、画質はずっと良いものになるという実感を得ました。

NEX-C3はかなり古いカメラで、かつそのシリーズの最低レンジの機種です。画質をフルサイズのカメラと比較しては気の毒と言うものです。

新しいカメラでは、ISO感度を上げても画質低下しにくいと言われているので、できれば新しいカメラを使いたい所です。

なお、D600での撮影では、画像が甘い(解像度が低い)という印象を受けました。撮影倍率を高くしたのが原因なのか、あるいはシャッターショックが影響している可能性もあります。シャッターショックに問題があるという場合には、カメラ選びをする際には、シャッターショックが小さいこと、という条件が加わります。

(7)撮影場所

詳しく分析する必要があることですが、気になっていることが一つあります。

撮影倍率値を上げたときに、モニター画面を見ると、画像が常にゆらゆらしているのです。

撮影している場所は、戸建ての2階建ての2階で、床に安定した台を置き、その上にベローズを載せた時の経験です。体を動かさず、息も潜めている、という状態でもそうなのです。

もしかして建物全体がわずかに揺れているのだろうか、という疑問を持っています。もしかして風が強い時だったのかもしれません。

そのとおりだったら、どういう手があるでしょうか。2階ではなく1階での撮影とし、それもできれば床にできるだけ近づけてベローズを置く、という位でしょうか。

(8)深度合成ソフト

CombineZPというフリーソフトを使っています。有料ソフトでは、世の中で評判が良いものとして、Helicon Focus とZerene Stacker の二つが挙げられます。

CombineZPを使ったとき、深度合成の結果の画像にゴミが入ることがあります。問題がどこにあるのかまだ明らかではありませんが、場合によっては上記の二つの有料ソフトも試してみたいと思います。



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