考えてみると=まじめ編=原発


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【20】東海村の核兵器廃絶宣言 (2014/8/14)

福島県南相馬市が2015年3月25日に「脱原発都市宣言」を告示しました。[追記 2015/3/26]

東海村立図書館

東海村立図書館に行ってきました。枕草子の研究書である「枕草子解環」が目当てです。この本は5冊のシリーズで、平均7,000円で合計35,000円と、個人ではなかなか手が出ません。

茨城県内の公立図書館の蔵書をネット上で検索することができますが、それによるとこの本があるのは、県立図書館のほか、古河市と東海村の3個所だけでした。

東海村立図書館でこの本を書庫から出してもらって読み、そのほかも見てみようと館内をぶらぶらしていると、東海村関係の資料を集めたコーナーが目に入りました。

東海村の原子力というパンフレットにしては分厚いものがあり、フリーです、と書いてあったので1部もらってきました。巻末に元素周期律表という見開きのページがあり、つぎには東海村民憲章、その次は村の紋章・木・花・鳥を開設したページで、その次は裏表紙で「日本の原子力地図」と題された原子力施設の場所を示す日本地図があります

内容は、東海村にある原子力関係施設の説明があり、よくまとめてあり、参考になります。

ゆかしい歴史と、原子の火に生きる東海の村民

東海村民憲章には次のように書かれています。

わたくしたちは、
 ゆかしい歴史と、原子の火に生きる
             東海の村民です

1 自然に親しみ きれいなまちをつくりましょう
1 教養を深め 文化のまちをつくりましょう
1 心身をきたえ 明るいまちをつくりましょう
1 仕事に励み 豊かなまちをつくりましょう
1 心を合わせ 住みよいまちをつくりましょう

東海村民は「原子の火に生きる」と高らかに宣言しています。

私は、少し前に、愛知県豊田市の市名の由来について調べ、愛知県挙母市が豊田市に市名を変更した理由は、当地に展開した豊田自動車工業株式会社(本当は一企業でしかないのですが)の隆盛と運命を一つにするという意識であったことを書きました。このようなケースは宗教に絡んだ名前を市名に取り込んだ場合を除くと、それまでにもなく、その後も出ませんでした。

この村民憲章を定めた東海村のあり方は、豊田市のケースとよく似た一面を感じます。豊田市のような一企業に限定するのではありませんが、原子力という一つの技術の分野の企業・研究機関などと都市の運命を一体化する考え方です。

最初のスローガンにうたわれた「ゆかしい歴史」と「原子の火」という二つの言葉は、それに続く5項目に直接つながるものではありません。この5項目はどの市町村にも当てはまる不変の真理と言えるでしょう。さらに「ゆかしい歴史」というのもどこにでも当てはまります。

ということは、「東海村民は原子の火に生きる」というのが村民憲章の本質と思われます。

原子力平和利用推進・核兵器廃絶 宣言の村

「○○宣言の市(町・村)」というのはよくあります。たとえば市町村の境界近くを通ると、その市町村の宣言を書いたたて看板が目に入ります。たいていは、核兵器廃絶、恒久平和などをうたっています。東海村では最初が「原子力平和利用推進」で、次に「核兵器廃絶」です。

「日本非核宣言自治体協議会」という組織があります。会員となる自治体は、同協議会のサイトの「会員自治体(ブロック別)/宣言文」によれば、合計302団体(1県178市、7区、101町、15村)(H26.7.1現在)にのぼります。

今回、302団体のすべての宣言文をまとめて、その内容をチェックしました。

(1) 原子力平和利用推進という内容を含むものは東海村のみ。「原子力」というキーワードでは、二つの団体(栃木県栃木市、東京都多摩市)が福島第一原子力発電所事故に言及していて、原発を否定するニュアンスです。

(2) 原子力施設が集中する地域でどうなっているか、という点で、青森県、茨城県、新潟県、福井県について見ると、以下です。

青森県 [1] 青森市
福島県 [4] いわき市、桑折町、南会津町、浅川町
茨城県 [10] 水戸市、日立市、つくば市、鹿嶋市、神栖市、潮来市、土浦市、大子町、美浦村、東海村
新潟県 [8]  新潟市、長岡市、小千谷市、加茂市、五泉市、上越市、妙高市、柏崎市
福井県 [0]

なんといっても福井県のゼロが目立ちます。日本最大の原発集中地域を抱えています。また最近、原発関連施設が続々と建設中あるいは建設計画の推進が目立つ青森県も1です。

このほか、市町村合わせて1というところは、鳥取県(鳥取市)、島根県(雲南市)、愛媛県(四国中央市)、鹿児島県(鹿児島市)で、鳥取県以外は原発のある県です。また、市町村合わせて2というところは、京都府(福知山市、宇治市)、山口県(周防大島町、平生町)、香川県(高松市、丸亀市)、佐賀県(嬉野市、武雄市)です。

こうしてみていくと、非核宣言のようなものがある都市は原発を抱える市町村にはほとんどなく、その周囲の市町村にもないという傾向が見てとれます。例外は茨城県東海村と新潟県柏崎市くらいでしょうか。たとえば佐賀県には玄海発電所がありますが、宣言のある嬉野市、武雄市はそこから離れた温泉地で有名なところです。愛媛県では県の西の端に原発があり、県で唯一の宣言のある四国中央市は東の端にあります。

これをみると、「非核」とは「原発」に反対する意味が込められているとみられているのですね。原発に依存する都市では、原爆に反対することも、更には恒久平和をうったえることもはばかられるようです。

やはり、東海村は特異です。「原子力平和利用」と「非核宣言」が並列にうたわれていて、しかも「原子力平和利用」が先に出てくるのですね。

茨城県民の歌

茨城県民の歌に「世紀をひらく原子の火」というフレーズがあり、一部で話題になっています。福島第一の事故の後ではこの歌詞では歌えない、というものです。県民の歌は「(途中略)このあたらしい 光をかかげ  みんなで進む足なみが  あすの文化をきずくのだ」と続きます。原子力礼賛の歌詞になっています。公募作品に部分的な改変を加えた、とされていて、応募作品にはもともと「原子」の言葉はなかったという意見があります。ちなみに、上記サイトでは「補作:茨城県民の歌審査委員会」と書かれています。

かって、ある小学校の校歌で、石油コンビナートを礼賛するような歌詞だったが、公害が発生して校歌の内容が問題視された、という報道がありました。調べてみると、三重県四日市の塩浜小学校で、市内の小学校で最大の被害が出た、と報道されています。

朝日新聞DIGIAL 2014年4月3日17時26分 公害乗り越え新校歌 コンビナート隣接・四日市の塩浜小(嶋田圭一郎)

同記事から最初の校歌を抜書きします。

港のほとり ならびたつ
科学の誇る 工場は
平和を護(まも)る 日本の
希望の 希望の 光りです

さらに記事を引用すると、「大気汚染が深刻化し、保護者から「『コンビナート賛歌』はふさわしくない」との声が上がる。72年、・・・・(中略)・・・・貿易港として発展する四日市港をうたう内容に改めた。」とあります。

東海村では、村民憲章や宣言の内容の見直しに至るのでしょうか。脱原発をうたった全東海村長は、原発はストップし原子力の研究拠点である点は継続する、という方針でした。「世紀をひらく原子の火」は「原子力の研究拠点」にはふさわしいともいえますね。


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