考えてみると=まじめ編=原発
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【17】100mSvの被爆が安全とはどう考えてもおかしい (2014/1/21)
講演会を聞いて
原子力の防災対策というテーマで講演会が近所で開かれるというので、出席してみました。
講演者は放射線の専門家として著名な方です。
講演の中で、100mSvの被爆は問題がない、との説明がありました。ガンになる確率が0.5%増える程度です、と言うのです。
これにはあいた口がふさがりませんでした。
私の今までの考え方の基本は、原発は放射性廃棄物を処理することができないから問題なのである、という観点であり、放射線被爆についてははきちんと考えたことがありませんでした。
講演での質問の時間などに、「ガンになる確率が0.5%増える、というのはとんでもなく大きな問題ではないのか」、という事を繰り返して質問・指摘しましたが、講演者は全く気にしていなかったようでした。私の質問で長い時間をとってしまうのも他の参加者の方に申し訳ないと思い、議論は途中で打ち切りました。
講演会の後で
講演会の後で、改めてこの問題を調べてみました。
ガンになる確率が0.5%増える、という事はネットで検索すると、いろいろなところで発信されていました。その根拠の一つは、「放射線医学総合研究所」が打ち出したもので、たとえばそのサイトの"お知らせ"では下記の様に書かれています。
被爆した放射線量が、例えば100mSv(ミリシーベルト)以下では、ただちに健康に影響を及ぼすことはありません。また、被爆した放射線量が高いほど数年後から数十年後にガンになる危険性が高まると考えられますが、その危険性は、例えば100mSv(ミリシーベルト)の放射線量で0.5%程度です。これは喫煙や食事などの生活習慣を原因とするガンの危険性よりも数十分の一程度低い値で、過度に心配する必要はありません。
いままで散々聞かされた「ただちに健康に影響を及ぼすことはありません」、「過度に心配する必要はありません」ですね。
この様な書き方の無責任さ、不正確さも取り上げるべきでしょうが、今回は、「ガンになる確率が0.5%増える」ということに焦点を絞ります。
「ガンになる確率が0.5%増える」というのが問題ない、という論拠の多くは、たとえばたばこや生活習慣でこの10倍以上の影響がある、ということの様です。
たばこで言えば、国立ガン研究センターのサイトでは、下記の様な記載があります。
たばこを吸う人のガンリスクは、吸わない人の1.5倍
つまり、リスクが50%高くなるということです。0.5%の100倍もの影響があります。
それでは0.5%程度は無視していいのか。とんでもない話です。
私は生まれてから一度もタバコを吸った事がありません。では、私がガンになるリスクが放射線の被曝によって1.005倍になることが問題ないのでしょうか。
確かにその差異は小さいようにもみえます。
私が住んでいる日立市は人口が19万人ほどで、死亡者数を調べると、2011(平成23)年は2041人でした。
死因がガンの割合は全国でおよそ30%と言われていますので、ガンによる死亡者は約600人です。0.5%というのは3人になります。
ここではガンになる確率とガンで死亡する事は区別しません。いろいろなネット情報で、この両者が厳密に書き分けられていないからです。いずれにしても概算しかできませんので、桁数を注目します。
では放射線に被曝しなければ3人は死ななかった、というのは問題にしなくていいのでしょうか。
仮に水道に毒物が入ってしまい、その影響は1年で3人がガンになる程度である、という事態がおこったら、そのままほおっておくのでしょうか。パンの製造工程で毒物が入ってしまったが、その影響は1年で3人がガンになる程度であるからそのまま放置する、というのでしょうか。
たしかに、喫煙者がタバコを吸う本数を半分にしたらガンのリスクは大幅に減ります。講演者も、リスクという点では放射線被爆は、喫煙や生活習慣病に比べたら微々たるものだ、ということを言っていました。たとえばタバコを吸う人を半分に減らせられれば、ガンにかかるリスクを33%減らすことができるという計算になります(1/2の人のリスクが、タバコによって1.5倍になっているものが1.0になると計算した場合)。だから、ガン患者を減らそうとするなら、喫煙や生活習慣病をまず対策すべきであって、100mSvの放射線被爆を問題にするのはそのあとだ、ということなのでしょう。
でもこの考えは間違いです。タバコについていえば、その危険性が訴えられてきて、それでもやめない人が残ったのが今の状態です。リスクを承知で吸っているタバコです。環境問題も事情が違います。いろいろな要因が絡み合っていて、具体的に何が主要な問題で何が主要な原因なのかなのか明確ではありません。
一方、今回の東電・福島第一原発から放出された放射性物質による被爆は、害を引き起こしたのは東京電力である、ということが明確なのです。市民は一方的にリスクを押し付けられたのです。リスクが小さいと言って逃れられるわけがありません。
原発の維持・推進が前提にあるのです。それで、ガンの影響は考えなくてよい、と市民を欺いているのです。
影響が少ない被曝がなぜ問題なのか?について [追記 2014/6/14]
タバコでガンになる人の割合と比較すると、100mSv程度の被曝の影響はそれよりずっと少ないからほとんど問題ない、という考えをする人がいるようです。なぜそれが許されないのか、ということをうまく説明するのが難しい、と思ってきたのですが、最近、「こういうことなのだ」という考えに至りました。まあ、それほど大した話ではないのですが。
道を歩いていて石とか木の根とか、そのようなものにつまずいて転んだとします。私なら立ちあがって「えへへ、ころんじゃったよ、まいったな」と頭をかくという程度でしょう。一方、誰かが私を突き飛ばしたために転んだとしたら、「何するんだ、この野郎」ということになります。相手が「自分でつまづいて転ぶようなことはよくあることだろう。つまづいたくらい何だ」、といったら「それもそうだ」と思いますか。「バカ野郎、それとこれとはまるで違う話だろう」といいます。自分で勝手に転ぶのと、他人に突き飛ばされて転ぶのでは全く違うことなのです、被害の度合いは同じでも。
誰かがガンを引き起こす危険物質を保管して使っていて、以前から危険だ、と言われていたにも関わらずやめないで、とうとう危険物質が流れ出したとき、自分が好きで吸っているタバコがガンを引き起こす可能性の方が確率が高いとしても、他人に対しては危険物質はだめ、というのです。当然です。