私の夢十夜


[2019/4/6]

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【23】私の夢十夜

夏目漱石の夢十夜

夏目漱石の夢十夜を読み出しました。

基本的にリアリズム路線の漱石の作品としてはめずらしく、幻想小説という印象でした。

「夢の話か、書いてみようかな」、と軽いノリでやってみました。

繰り返して見た夢か、あるいは一度きりの夢でとても印象的なものを10題選びました。


夢ですが、実際に見た夢ですから、その意味では現実です。


1. 空飛ぶプロペラ
2. 実家に押し寄せる波
3. やくざの抗争
4. 海辺のホテルに高波が押し寄せる
5. トイレに行けない
6. 遠くに見える建物にたどり着けない
7. 準備すべきイベントがあるのにできていない
8. 奥歯が十の字に割れた
9. 高山で近くに落雷
10. 「ほっぺたをつねったら痛い、これは夢じゃないんだ」


第一夜 空飛ぶプロペラ

このような夢を見た。

私は子ども。誰かに追われている。

ランドセルにプロペラのようなものがついていて、それを背中に背負うと、プロペラが回って体が浮き上がった。

これで逃げられる。

下では何人もの子どもが飛び上がって足を捕まえようとするので足をもちあげた。

それでも危なさそうなので紐を引く。こうするとプロペラの回転数が上がってより高く飛べる。

下の子供らは棒を持って足を叩こうとする。さらに紐を強く引くとさらに高くなる。

これで安心、と思っていると、次第に体が下がり始まる。

いけない、と、さらに紐を強く引く。体が上がる。

体が下がる。さらに紐を強く引く。体が上がる。

紐を緩めなくてもだんだん体が下がるのだ。

待てよ。この紐はどこまで引き続けることができるのだろうか。

そこで目が覚めた。

第二夜 押し寄せる波

私の生家は海の目の前だった。

具体的に言うと、わが家の前に隣家が1軒と畑があり、その先は十数メートルの崖になっていた。崖の下は砂浜で、波が打ち寄せていた。

それで、このような夢を見た。

自宅の庭にひとりでいると、畑の向こうになにか白っぽいものがちろちろと動いている。

気になって眺めると、波の先のしぶきの様だった。

一瞬見えたあと視界から消え、10秒位するとまた見えた。

10秒くらいの間隔でやってくるようだった。間違いなく海の波だ。

十数メートルの崖を越えて波が来ている。

地震はなかったので、どうしてこんな大きな波が来るのか見当が付かなかった。

最初はしぶきが見えただけだったが、次第に水が畑の上まで流れてきた。

この頃には、ザブーンという波が砕ける音がはっきりと聞こえてきた。

最初は波は畑の上を1m位流れてきてやがて引いていった。

次は2m位流れて来て、波が引いた後も海水は畑の上にしばらくの間たまったままだった。

次は3m位流れて来た。このままでは、まもなく自分の足下に届くだろう。

家の中にいる家族に知らせなければ、と思ったが、足が動かない。

大声を出そうとしたが、声が出ない。

やがて、畑の向こうに、はっきりと波の形が見えるようになり、もう波が引いても海水は残っていた。

そして、とうとう私の足下に海水がかかった。

そこで目が覚めた。

第三夜 やくざの抗争

このような夢を見た。

家にいると、なにか変な音がする。

何だろう、と思い、裏口から出て、家の陰から音がする方向に目を向けた。

数百メートルくらい先になだらかな丘があり、黒い服装の二つのグループが互いに銃を打ち合っていた。

遠くにいるグループが優勢で、こちらに近いグループはじりじりと後退していった。

いつの間にか、一人一人の顔立ちが分かるくらいに我が家に近づいてきた。

そのとき、劣勢のグループは銃で撃つのを止めて逃げていき、優勢だったグループはそれを追いかけていく。

家の陰から様子を見ていて、そのまま両グループが通り過ぎてしまえばいい、と思った瞬間、背後から黒い服装の男が銃を構えて飛び出してきた。

子どもの姿を見て、彼も驚いた様子だった。

「撃たれたらどうしよう、子どもだから見逃して」、と思った瞬間に目が覚めた。

第四夜 海辺のホテルに高波が押し寄せる

このような夢を見た。

海辺のホテルに泊まっていた。

大きな本館と海に突き出るような形の新館が渡り廊下でつながっていた。

私は新館にいて遠くの海を眺めていると、遙か遠くに高い波が立っているのが見えた。

その波は遙か遠いのに、その高さは尋常ではなかった。

あのままでここまで寄せてきたら危ないな、と思った。

まだまだ遠い、と思っていたが、気がつくとすぐ目の前に自分がいる階よりは低いが、白い波が見え、建物に打ち寄せ、ドドーンという音と共に足下が揺れた。

遠くを見ると、次の波がさっきの波よりも高く盛り上がっていた。その後ろにはさらに高い波が見えた。

ここにいてはダメだ、新館に逃げなくては、と思い、廊下に飛び出すと、窓から先ほど見えた波はぐっと近づき、さらに高さを増しているのが分かった。

渡り廊下のある階まで階段を下りようと下を見ると、さっきの波で渡り廊下が海水に浸かり、その水が引いているところだった。

次の波が来る前に階段を下りて、渡り廊下を渡って新館に行き、さらに高い階に上がらなければ、

と思い、階段を下り始めるが、その階段はどこまでも下に続いていて、渡り廊下が見えない。

このままでは次の波が来てしまう、と思い、また引き返した。やがてドドーンという波が建物に当たる音が響き、海水が渡り廊下あたりに流れ込む音が続いた。

あのままあそこにいたら、きっと波にのまれていただろう。

そうだ、今すぐに階段を下り出すと、波が渡り廊下から引いた頃に渡り廊下に着くから、急いでそれを渡って新館に行き、階段を駆け上がる、というのがいい。

渡り廊下の海水が引くザーという音を聞きながら階段を急いで下りる。

でも、今度もいつまで階段を下りても踊り場の所に行き着けなかった。

いけない、次の波が来る。しかたなしに、また階段を駆け上がる。

今度は階段を上る途中で立ち止まって考えた。波が打ち寄せた後で海水が引くのに合わせて階段を駆け下りるというのが、タイミング的には一番良いのではないか。

そこでそのまま波が打ち寄せるのを待った。

まもなく波は打ち寄せてきて、渡り廊下のあたりを海水で満たし、階段のすぐ足下まで海水がせり上がってきた。

今度は海水が引くのを追いかけるように、階段を下りていった。

もともといたのは4階だったから、1階の渡り廊下までどのくらいなのか見当が付くはずなのだが、このあたりにあるはず、という場所に渡り廊下がない。

ダメだ、次の波が来る。また階段を駆け上がった。

このようにしていて目が覚めた。

第五夜 トイレに行けない

このような夢を見た。

何かの用事で学校に行った。

用事が終り、トイレによってから帰ろうとあたりを見回した。

こちらの校舎と向いの校舎の間に小さな建物があり、それがトイレのようだ。

トイレとおぼしき建物は向いの校舎に近いので、そちらとつながっているのだろう。

廊下を進み、右に曲がって向かいの校舎につながる渡り廊下を進んで向いの校舎の中に入る。

廊下を進むと、やがて右手に、トイレにつながる廊下が出てくるはずだった。

しかし、どこまで進んでも廊下の右側は壁が続いているばかりだった。

廊下の右側の窓から外を見ると、トイレとおぼしき所は遙かに過ぎていた。

あれ、こちらから行けるのではなかったのか。

さらに進むと、廊下は左右に分かれていた。

右に行けば最初にいた建物に戻る。そちらにトイレにつながる廊下があるのだろう。

右に進む。右手の窓から見ると、トイレにつながる廊下は確認できなかった。

とにかく最初にいた建物に戻り、廊下を右に進む。

蛇口が並んだ手洗い場はあったが、トイレにつながる入り口はない。

今日は学校は休みで生徒はいないが、教師はいるはず。

やがて一人の教師らしい人が歩いてきた。

「すみませんが」と声をかけるとその人は「すみません、急いでますから」と言って足早に立ち去ってしまった。

足音が消えると静寂が戻った。休みの日の学校ってこんなに静かなんだ、とあらためて気づいた。

仕方なくそのまま進むと、さっき通った、向かいの校舎に続く渡り廊下がなく、壁が立ちはだかっていた。

廊下は行き止まりで、左には教室があるばかりだった。

呆然と立ち尽くしているところで目が覚めた

第六夜 遠くに見える建物にたどり着けない

このような夢を見た。

用事ができて、指定された建物に向かって歩いて行った。

道路の左手の遠くに二階建ての建物が見え、そこが指定された場所のようだった。

道路の端の歩道を進む。左に分岐するところがあるはず。

しかしその分岐は工事中で、通ることができなかった。

さらに進んで、ぐるっと回り込めばいいのだろう。

しかし、その道は緩やかに右にカーブして、目的の建物からどんどん外れていく。

すべての道はつながっているのだから心配なかろう、と思い、そのまま進む。

道は畑の中の一本道になり、家もまばらになってきた。

いつの間にか夕暮れになり、家々の明かりがいくつか見える。

指定された建物と思われる方向を見ると、平屋の建物より一段と高い所にある窓がぼんやりと明かりがともっているようだった。

あそこが指定された建物だろう。

しかし、行けども行けども道路の左に分岐はなかった。

ずいぶん暗くなってきた。

この分では帰り道も分からなくなりそう、と不安になった。

そのときに目が覚めた。

第七夜 準備すべきイベントがあるのにできていない

このような夢を見た。

近々会社幹部に現在進行中のプロジェクトの中間報告をデモして見せることになった。

少しずつ準備をしていった。

金曜日、いつものように残業になった。

同じ仕事をしている同僚の一人が、「今日は用事があるので帰ります。明日の土曜日は出ますから」と言ってきた。

「ああ、そう。分かった」と私は答えた。

「あれ、デモはいつだったかな」、と思って手帳を見る。

月曜日 13時。

ええっ。来週の月曜日なのか。

あわてて、現在の状況を考えた。

とても間に合わない。少なくともあと1週間はかかる。

どうして気づかなかったのだろう。

どうにもならない。

ではやり方を変えて、簡単に準備できるデモはないだろうか、と考えた。

どう考えても思い浮かばなかった。

金曜日の残業時間から始めて、月曜日の午後のデモを、会社幹部に見せられる内容に仕上げるのは無理だ。

なにか手はあるだろうか。

もう一人の同僚は、月曜日の午後のデモという事実に気づいているのかいないのか分からない。なにか文章を作っている様子だ。

もはや休日出勤してどうなるレベルではない。

呆然と立ち尽くしているところで目が覚めた。

第八夜 奥歯が十の字に割れた

このような夢を見た。

口の中に違和感がある。

指で探ってもよく分からない。

鏡の前で大きく口を開く。

何てことだ。

奥歯の一つが四つに割れている。

"田"の字のように見事に四つに割れている。

目の前が真っ暗になる、という感じだ。

歯科医院に行けば抜くしかない、と言われるだろう。

どうしよう。

接着剤でくっつけようか。

強力瞬間接着剤ならある程度は持ちそう。

でも、強力瞬間接着剤なら接着面を乾かさなくてはいけない。口の中をどうやったら乾かすことができるだろうか。

また、乾かせたとして、右の二つを接着し次に左の二つを接着し、最後に左右を接着する、ということはとてもできそうにない。

やるとしたら、四つを一度に接着するしかない。

接着剤を流し込むのは鏡を見みながら何とかできるかもしれない。

その後、四つの部分をしっかりと押さえなければならない。奥歯という手の届きにくい所のものをどうやって押さえられるだろう。

さらに、接着剤がはみ出すに違いないが、それをどうやって拭き取るのか。

下手をすると、はみ出した接着剤が頬と歯肉を接着してしまうことにならないだろうか。

いや、はみ出した接着剤で舌と歯がくっつくかも知れない。さらに大問題だ。

そうかと行って、奥歯のような大きな歯を抜くのは絶対に避けたい。

奥歯を抜くのは手の指を1本切り落とす以上のショックだ。

そのように思案していて目が覚めた

第九夜 高山で近くに落雷

このような夢を見た。

山登りをした。

具体的には南アルプスの北岳である。

山頂付近で雨が降り出し、雷も鳴り出した。

山登りでは良くあることである。

岩陰に隠れて雷雲をやり過ごすことにした。

雷鳴は次第に近くなり、とうとうかなりの至近距離に落雷があった。

かなりの衝撃だった。

ああ、やられた。

少しして正気に戻った。

ああ、良かった。死なずに済んだ。

よく見ると、胸元のシャツは焼けていた。

ああ、こんなになったか、と思い、焼けて破れたシャツを開くと、ギサギサ模様のやけどの痕があった。

雷に撃たれると、雷を描いた絵でよく見るギサギサ模様に焼けるのか、と妙に納得した。

でも死ななくて良かった、

と思った所で目が覚めた。

第十夜 「ほっぺたをつねったら痛い、これは夢じゃないんだ」

「ほっぺたをつねったら痛い、これは夢じゃないんだ」という言葉が気になった。

では夢の中では「ほっぺたをつねったら痛くない、ああこれは夢なんだ」ということになるのだろうか、と思った。

一念発起、「ほっぺたをつねる夢を見ますように」、と念じながら毎晩寝た。

すると、とうとうその夢が実現した。ほっぺたをつねる夢を見ることができたのだ。

目が覚めて一応はうれしかった。"夢"が実現したのだから。

それでどうだったのか。

「ほっぺたをつねったら痛い、これは夢じゃないんだ」と思う夢だった。

「『ほっぺたをつねったら痛い、これは夢じゃないんだ』という表現だけを目にし、耳にしていたのだから、その通りの夢を見るのは当然だ」、と思ったものだった。

中学生のときだったと思う。



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