失言のアーカイブ 001 中谷防衛大臣の国会答弁


[2015/6/10]

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「失言のアーカイブ」への前書き

いろいろと問題発言が報じられる。しかし、喉元過ぎれは熱さを忘れる、ということか、すぐに注目はよそに移ってしまう。それだけ問題発言が多い、ということかもしれない。後で思い出して、その内容を再確認しようとした時、苦労した末にようやく見つかるか、あるいは見つからないことが多い。そこで、自らが判断して"これは問題だ"という事柄をこのシリーズで記録しておくことにした。

001 中谷防衛大臣の国会答弁(2015.6.5 の衆院特別委員会)

「・・・・この現在の憲法、これをいかにこの法案に適用させていけばいいのかという議論を踏まえまして、閣議決定をおこなったわけでございます・・・・」

Youtubeの動画があります。15分7秒の動画のうち、の8分58秒から問題の言葉が流れます。

意外にこれがマスメディアでは取り上げられない。ネットでは非難轟々です。

下記はEveryone says I love you !さんのサイトからの引用です。Youtubeの動画の引用について、"歴史に残るこの答弁"と明解に批判しておられます。

こんなの、立憲主義に反するとか憲法学者に言ってもらわなくても、公民の授業を受けた中高生なら、一斉に
「憲法と法律の順位が逆!」って突っ込みますよ。」

Youtubeの動画についても、"歴史に残るこの答弁"と明解に批判しておられます。


質問した辻本議員がこの失言を捉えてさらに追及するかと思えば、全く反応しません。千載一遇のチャンスだったのに。

最近の質疑応答では、質問する方(ほう)が馴れていなくて、質問のストーリーを事前に考えていて(それ自体は悪いことではないでしょうが)、こいういうチャンスもみすみす見逃す、という場面がよく見られます。回答者から見れば、「あっ、とんでもないことをいってしまった」とドキッとしても、話が次に進んでいくので、「ああ、助かった。あれを突っ込まれたら万事休すだった」と胸をなでおろしていたに違いない。

私が期待するのは、辻本議員が「これで一つ言質をとった、もうひとつあれば言い逃れできなくなる」、という読みで、このトンデモ答弁をサラリと流した、という可能性である。

もしトンデモ発言して指摘を受けたとき、「あれは言葉をちょっと間違えた(あるいは言葉足らずだった)、真意はこれこれです」、と逃げを打つ可能性が高い。それで時間がたってから「あの時にこう言ったではないか」と持ち出すのではないか。そのためにサラリと流したのではないか。

まあ、ほんとのことはわからない。いつもながらの勝手な推測です。

後書き

このシリーズの最初の記事は中谷防衛大臣の答弁になった。

実は、最初の記事はこれだ、と前から考えていたものがあったのだ。

小泉総理が自衛隊のイラク派兵問題において、非戦闘地域に関する定義について議論になったときである。

なにか根拠のある出典はないかと探したところ、次の様な記事が見つかった。国会の外での質問と答弁の様である。今回初めてこの様なものがあることを知った。回答者が小泉純一郎総理(当時)であり、国会の公式文書である。

自衛隊のイラク派遣延長に関する質問主意書

質問は9項目あり、その最初のものがこれある。

1 小泉首相は民主党の岡田克也代表との党首討論で、イラク特措法における非戦闘地域非戦闘地域の定義を聞かれ、「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域非戦闘地域(ママ)」と答えた。現地自衛隊員の安全を真面目に考えているのか疑問で、一国の総理としては、とんでもない答弁をするものだと批判を受けた。このような総理答弁について、その後、閣僚から何か意見が出たか、伺いたい。それとも総理の発言に黙して語らずで、このような答弁をする総理の姿勢を閣僚は是認しているか、伺いたい。

「非戦闘地域」という言葉ががくりかえされているが、これは実際に繰り返して発言したのか、文章編集の手違いなのかは分らない。

1について
御指摘の答弁は、平成十六年十一月十日の国家基本政策委員会合同審査会における内閣総理大臣の「自衛隊が活動する地域は非戦闘地域である、これがイラク特措法の趣旨なんです。」との答弁を指すものと思われる。

「自衛隊が活動する地域は非戦闘地域である」と発言したことを当人が書いている。

これが無責任だ、と非難されたのである。

ところがこの時に質問した岡田克也氏の受け取り方はちょっと違っていたようだ。この件については「岡田克也」のHPで見つかる。ちょっと長いのだが引用してみる。なお、太字は引用者によるものである。

岡田「私が申し上げたのは、イラク特措法における非戦闘地域の定義を言ってくれと言ったんです」

総理「定義は、それは文書を持ってくればすぐ言えますよ。(総理は後ろを振り返り、定義を書いた資料を持ってくるよう促すが、反応なし)党首討論ですから、考え方を言っているんです。私は、特措法というのは、自衛隊が活動する地域は非戦闘地域である、これがイラク特措法の趣旨なんです」

党首討論の議長役の北沢俊美委員長が「御静粛にお願いします」と2度繰り返すなか、委員会室は騒然となった。

岡田「非戦闘地域の定義は、現に戦闘行為が行われておらず、かつそこで実施される活動の期間を通じて、つまり1年間です、戦闘行為が行われることがないと認められる地域なんです。ですから、私が総理に聞いたのは、これから1年間サマワにおいて戦闘行為が行われないと、そういうふうに言う根拠は何ですかと聞いているわけです」

総理「それは、将来のことを100%見通すことはできません。非戦闘地域でなくなった場合には、(中略)撤退しなきゃならない」「将来、はっきり100%、いつどうなるかというのをこの際断言することはできません。しかし、はっきり申し上げますが、自衛隊が活動している地域は非戦闘地域、これがイラク特措法の趣旨なんです」

岡田「まともに議論する気がだんだんなくなっていくんですが。非戦闘地域を将来戦闘行為が行われることがないと認められる地域と法律上定義したのは政府ですよ。そしてこの定義は憲法上の疑義を招かないための定義でもある。しかし、いま、これから1年間戦闘行為が行われないという説明できなかったじゃないですか。そうであればこれ非戦闘地域と言えないんです」

以上が、小泉総理の代表的失言・迷言の1つとされる「自衛隊のいるところは非戦闘地域」のやりとりである。

実は小泉総理は、一部メディアが報じたように「自衛隊のいるところが非戦闘地域」とは言っていなかったのである。「非戦闘地域の定義は何か」という問いに対し、「自衛隊のいるところが非戦闘地域」と答弁したとすれば、これは一種のトートロジーになり、論理矛盾である。しかし、小泉総理は「自衛隊のいるところは」と答弁した。定義を聞かれているのに対し、その答えの内容が問題だったのではない。何も答えていないことが問題だったのである

私は、小泉総理が非戦闘地域の定義を正確に言えないことを追及しても仕方がないと、その場で判断した。総理秘書官が定義を書いた答弁書を持ってくることは時間の問題であったし、従来の野党型の揚げ足取りと受け取られることも避けたいと思ったからである。

そして、私が本当に詰めたかったのは、非戦闘地域を「将来戦闘が行われることがないと認められる地域」と法律で定義しながら、その定義に該当することの説明ができていないことだった。これは非戦闘地域という概念が、憲法が禁じる「海外における武力行使」に該当しないために設けられたものであることを考えると、非常に大きな問題だった。

この党首討論のやり取りは、メディアに大きく取り上げられることになった。しかし、多くのメディアが注目したのは、「小泉総理(ママ;以下同様)がなぜサマワが非戦闘地域であるのか説明できなかったこと」ではなく、「自衛隊のいるところは非戦闘地域である」という答弁のほうだった。

そして、一部のメディアからは、私が小泉総理の失言を厳しく追及しなかったことを批判された。小泉総理が非戦闘地域の定義が分からず迷走しているときに、なぜ岡田代表は自分で非戦闘地域の定義を言ってしまったのかというわけである。

しかし私は、総理が非戦闘地域の定義を答えられないことよりも、非戦闘地域の定義に該当すると説明できないサマワに自衛隊を送っていることのほうが本質的な問題であると思っていた。いまもその思いは変わらない。

私はこのやり取りをテレビのニュースで聞いた。上記の太字て示した部分は、全体的な印象では、「小泉総理(当時;以下同様)が追い込まれて、つい"開き直った言葉"だ」と感じた(岡田氏は否定しているが)。

しかし、この岡田氏の説明を聞くと、今までの印象とちょっと違っているな、と感じる。「自衛隊のいるところは非戦闘地域」という言葉を追及しても、何も進まない。なぜなら、「自衛隊は非戦闘地域にだけ派遣できるのだから、自衛隊のいるところはどういう場所か、といえば"非戦闘地域"です、ということになりますよ」という回答をして、「派遣するに当って非戦闘地域であると判断した根拠は何か」と言えば「定義書を読み上げるだけ」、ということになるだろう。こうして時間だけがどんどん過ぎていく。

今回、この岡田氏の文章を読んで、私が今まで抱いていた印象はちょっと変わってしまった。

ただし、それでは小泉総理の発言を支持するらか、と言えば、全くそうではない。かれは自分の言いたいいことを言うだけで、根拠を示して納得させる、ということはまるで頭にない。語りたいことを語るだけである。

イラク戦争を始めた第一の理由は「大量破壊兵器」を持っているから、ということだった。しかし、結局「大量破壊兵器」は見つからず、最初からなかった、という結論に帰着した。CIAの報告が間違っていた、と言うことが認められた。しかし、小泉(元)総理は「大量破壊兵器がみつからないからといって、ないといえるのか」とあくまで言い張ったままだった。

なぜこんなことを書くのか、というと、最近(2015.6.9において)小泉元総理が原発稼働について、反対論を主張し具体的に活動しているからである。先の都議選では、細川(元総理)を候補者にして支援し、反原発の主張を強めてきている。

私は、反原発の立場に立つが、小泉元総理の反原発活動は何の興味もわかないし、何の意味もないと思っている。過去のイラク派兵に関する発言を聞いて、この人は全く信用できない人だ、と分かった。この人が発言することは、単なる"遊び人のお遊び"である、としか思えわない。反原発の運動にしてみれば、余計な人がでてきて単にかき回して邪魔している、とみるのが妥当なところだろう。



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