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[2019/2/11]
レンズの公式
基本的に接写倍率をどのくらいに考えるか、についてざっと計算しました。
レンズの公式が使えると仮定します。
レンズの中心から被写体までの距離をa、レンズの中心からイメージセンサー面までの距離をb、レンズの焦点距離をfとすると、以下の公式が成り立ちます。
1/a + 1/b = 1/f…………式1
撮影倍率をmとすると、m=b/a で、これを使って式を変形すると、以下が得られます。
a=(1+1/m)・f…………式2
b=(1+m)・f…………式3
a+b=(2+m+1/m)・f…………式4
接写システム全長と接写倍率
式4はとても有用です。
a+b は被写体とカメラとの距離です。これを接写システム全長ということにします。
あるレンズを考えると、接写倍率を大きくするほど接写システム全長が伸びます。つまりカメラを被写体から離すのです。
大きく写そうとするときには、感覚的には被写体にカメラを近づける、と言うイメージですが、ここでは逆に被写体から離さなければいけない、ということになります。
実際にやってみたときに最初は戸惑いました。倍率をもう少し大きくしようとしてカメラを被写体に近づけると逆に画像は小さくなるのです。
式4を眺めると"なぜか"ということが納得できます。
倍率が小さいとき、m自身の値は小さく、1/mの値は大きくなります。たとえばm=0.1なら、1/mは10です。mを0.1から0.2と2倍にすると、m=0.2、1/m=5です、
a+bの値は、mの項は0.1から0.2へと0.1のわずかな増加ですが、1/mの値は10から5へと大幅に減少します。つまり被写体とカメラの距離は大幅に小さくなるのです。
これが高倍率接写の時には、たとえばm=5のとき、m=5、1/m=1/5=0.2で、接写倍率をその2倍にするとm=10、1/m=1/10=0.1。mの項が+5と大幅に増加したのに対し1/mの項は0.2から0.1へのわずかな変化です。
つまり被写体とカメラの距離は大幅に広がるのです。
レンズとカメラの位置関係は、式2と式3を眺めるとよく分かります。接写倍率が大きくなると、aはレンズの焦点距離fに少しずつ近づいていき、bはどんどん大きくなる、ということです。つまりレンズ位置は少しずつ被写体に近づき、カメラ位置はどんどん被写体から(レンズからも)離れていく、ということですね。
レンズの公式は高校で習うことだったと思いますが、本当に役に立ちますね。
実際の数値で確かめる
たとえば等倍では m=1 ですから、a+b=4f
被写体とカメラの距離は、レンズの焦点距離の4倍と言うことです。
たとえば50mmレンズでは200mmです。
思い切って拡大率を10倍にするとどうなるか。
a+b=12.1・f です。レンズの焦点距離の約12倍です。50mmレンズなら600mm。ベローズの長さは20cmほどですからとても足りない。接写リングを使っても接写システムの全長は300mm程度でしょう。
これを300mmとして逆算すると、(2+m+1/m)・f=300 ですから、m+1/m=300/f-2 となります。
50mmレンズでは m+1/m=4 ですから、接写倍率はおよそ4倍、28mmのレンズでは8倍くらい、24mmのレンズでは10倍くらい、と見当がつきます。
10倍などという倍率にするには28mmとか24mmといった広角レンズが必要になると言うことですね。
実際の撮影では
50mmレンズを使い、ベローズを伸ばして被写体とカメラの距離を30cmにすると、式4から、
a+b=300=(2+m+1/m)・50
ですから、m+1/m=4です。この式は、m2-4m+1=0 と変形でき、二次方程式の根の公式から m=2±√(3)です。上で、接写倍率はおよそ4倍と書きましたが、正確には3.73倍ですね。
接写倍率を5倍で撮影するなら以下のようになります。
a+b=(2+5+1/5)・50=7.2x50=360
a=(1+1/m)・f=1.2x50=60
したがって、被写体とカメラを360mm離して、レンズは被写体から60mmの位置に固定すればよいことになります。
レンズの位置というのはちょっと問題で、撮影レンズは複数のレンズの組み合わせです。レンズの公式ではレンズの位置とはそのレンズの主点といういい方をするようです。
カメラボディのイメージセンサーの位置(フィルムカメラならフィルムの位置)はたいていはボディに書いてあります。しかしレンズの主点は表示がありません。
まあ、ズームレンズならズームすると主点が移動してしまうとか、インナーフォーカスのレンズでは焦点を変えると主点が移動してしまう、などということがあるからなのでしょうか。
余談ですが
レンズの主点は以前に、パノラマ撮影で関わったことがあります。
少しずつ撮影方向をずらして複数枚撮影し、ソフトウェアで合成して広い角度の画像を作るものです。
撮影方向をずらすときに、安直にやるなら、カメラのボディを中心にして回転させる(三脚に取り付けたときにはこのようになる)とか、もっと安直にやるなら、カメラを保持した自分が中心軸になって視野を回転する、などという方法が考えられます。被写体が遠景だけだったらそれでもおおよそは大丈夫ですが、近景と遠景を含んでいるときにはレンズの主点を中心に撮影方向を回転させる必要がある、ということです。そうでないと、近景と遠景の位置関係がとなりの画像と不連続になり、うまく合成することができないのです。
このことは、本サイトの"写真を撮るための機材,技法など"の部屋の 【3】撮影道具3 パノラマ合成ソフトの中の"注意点"というところで、ノーダルポイントという呼び方で触れています。
ノーダルポイント、主点、節点、焦点中心などいろいろな呼び名があるようです。節点=ノーダルポイント、主点=焦点中心のようで、原理的には両者は異なる位置ですが、空気中で撮影している場合は一致するようです。たとえばこの記事です。この株式会社 レンズ屋さんの"光学技術Q and A" というサイトの記事はいろいろな質問と回答があり参考になります。