【11】茨城県竜ヶ崎市 来迎院多宝塔


前の写真   次の写真   "最近の写真"の目次に戻る

茨城県竜ヶ崎市に来迎院があります。

その多宝塔が国指定重要文化財に指定されています。


場所は竜ヶ崎市の中心部から北西方向に歩いて20分くらいでしょうか。

1.手前から

1.手前から

近づくと、周囲には高い建物がなく、搭らしき建物が目立ちます。

ただし、思いのほかこじんまりとした印象です。


通り過ぎてから振り返ります。

2.奥から

2.奥から

写真1と写真2がちらっと見たときには変わりがありません。

2枚の写真は、撮影位置が90°ほど違っています。
搭の一層目は方形、その上は円筒なので、どちらも同じような形に写ります。

写真2の左下に白っぽいものが写っていますが、釈迦涅槃像です。


多宝塔のこの形は、今回初めて実物を見たのですが、実はそれほど珍しい
ものではないようです。

たとえば、茨城県内では、雨引観音として有名な楽法寺にもあります。

形式はどこも大体同じようで、方三間の一層に裳階が付き、その上に円筒系の
部分があり、その上に方形の屋根が重なり、その中央に法輪が乗ります。

円筒部分は一層部分より大分小ぶりなため、上部の屋根は裳階の屋根より
ずっと小さくなります。

ネットでいろいろいな多宝塔を見ましたがどれも同じような姿に見えます。

3.説明板

3.説明板

これによると、多宝塔の宝珠の銘文から弘治二年(1556年)に修理した事が分ったため、
建立はそれ以前と考えられているそうです。

4.一層目

4.一層目

左側面に階段がついているので、正面でしょう。右手に釈迦涅槃像が写っています。

四面ともに、中央の一間が開き戸、その左右の各一間は板張りで、
中ほどに太い長押(なげし)を配置します。

5.組物

5.組物

組物は二手先、禅宗様の木鼻が見えます。


6.裳階下部

6.裳階下部

裳階の四隅に金属性の風鈴の様なものが見えます。
風鐸(ふうたく)と呼ぶようです。
当日は風がなく、音は聞こえませんでした。

面白いのは中備です。

四面ともに、中央の一間は間斗束の束のないもの、それ以外の場所には中備はありません。

7.中備

7.中備

そもそも、束のない間斗束というのもおかしな話で、要するに方斗があるだけです。
束がないので、重量を支えるための構造物ではないでしょう。

意匠の点から付けたのでしょうか。宙に浮いているようで、
かえって不安定な印象を受けます。


8.端の一間

8.端の一間

柱間の幅に対して、柱が相対的に太いため、重厚な印象を与えています。
中備の不安定さと対照的です。

太い長押も建物の重厚さを印象付ける要因になっています。

ところで、長押は釘などの金具で柱に固定する例が多いようなのですが、
ここにも釘らしきものがあるようです。

もう少し時代が下ると貫(ぬき)が使われるようになるのでしょうか。

9.縁

9.縁

四周に縁がめぐります。

この部分は造りが比較的新しいようです。
雨に当たるところなので、痛みが早く、修理が頻繁に行われるのでしょう。

10.床下

10.床下

柱の下面が直接礎石に乗る形です。
礎石のサイズはかなり大きめですね。

いままで見てきた寺院の堂では、柱は礎盤を介して礎石に乗る物がほとんどです。
足元が痛んだときには礎盤だけを交換すればよく、メンテナンス性に優れた方法です。

ここでは、柱の足元の痛んだ部分を切ってすげ替えてあります。

多宝塔はこのような造りなのでしょうか。


視線を下から上に移します。

11.円筒の部分

11.円筒の部分

一層目の裳階の屋根の上に亀腹が乗り、その上に高欄の付いた円筒形の
部分が乗ります。

本当に円筒状です。

六角堂や八角堂が円筒形を目指しながらも造りの上の制約から
多角柱の形状になった、というものとは違っています。

では、亀腹を直接地面に置けるかと考えると、それはちょっとなじめない。
方三間の上なら亀腹を介して円筒状の構造を載せることができる。

確かにそんな気がします。

屋根のすぐ下に尾垂木が直線状に並んでいて、尾垂木の先端は屋根と同じく
四角形です。
その基部の組物は円周状に配置されるので、組物の形は計算が面倒でしょうね。
こういうところから、多宝塔のデザインは土地、時代を通して似たものに
なっている、ということでしょうか。


12.円筒状の構造の部分

12.円筒状の構造の部分

柱の数を数えると、角度にして90°の部分を4本の柱で支えます。
つまり90°を三分割しているので、一周は12本の柱で支えていることになります。

柱と出組の間にある部材(内法長押でしょうか)の円形の部材は、柱間二つごとに
継ぎ目が見えます。
つまり、円周を6等分した部品を6個繋いで円形を構成しているわけです。

このような設計技法がどうなっているのか興味がわきます。

13.全体

13.全体

もう一度正面から、搭全体を眺めます。

一番上に相輪が配置されます。

14.相輪

14.相輪

相輪の上部から屋根の四隅に鎖が4本張られ、それぞれの鎖に4個の風鐸が
下がっています。

このような構成はネットで多宝塔を探すと、多数派のようですが、
鎖の途中に下げられるものは、ない場合もある場合もあり、その大きさも
いろいろです。来迎院の物はかなり大きい方です。

ここで見られる相輪には珍しい特徴があります。

相輪の構造は、9個の輪(九輪)の上に水煙、龍車、宝珠と並びますが、
水煙、龍車、宝珠が同じようなデザインになっているのです。

いや、この言い方はおかしい。水煙がないというべきでしょう。

殆どの場合、水煙だけは平面、まれに2枚の平面が直交し、炎が
燃え上がるようなデザインです。

寺院では火事を嫌うことから、炎ではなく水煙と表現します。

それがここでは龍車、宝珠と同じように、丸い物を花弁が包むような形を
しています。

かなりユニークなデザインではないでしょうか。

この写真を拡大してみました。

14.相輪上部の拡大画像

15.相輪上部の拡大画像

この様に、一番上の宝珠に、水煙に似た形状のものが球面上に4個あるようです。

2枚の平面が直交した水煙の中央に球がはまっている、といえばいいでしょうか。

無理に理由づけを考えると、
・九輪のすぐ上から鎖を下げたかった、
・しかしそこが水煙では難しいので、丸い形にし、水煙状の形状は最上部に付けた
というところでしょうか。

まあ、いつもの勝手な想像です。

手元の「図解 文化財の見方 山川出版社」によると、これとよく似た形状がありました。

「露盤宝珠のいろいろ(第1版16刷のP.86)」に、東福寺愛染堂の例が記載され、
球形の宝珠の表面に火焔のデザインの二枚の平面が直交するような形が示されています。

ネット上に写真がありました。

東福寺愛染堂の露盤宝珠

調べてみると、一般に、宝形造り、六角堂、八角堂のように屋根の各面が
頂部に集中するとき、そこの雨仕舞い(雨対策)として露盤宝珠を配置する、
というのが日本の古建築の常道のようです。

参考:日本金属屋根協会の用語集

でも、相輪と露盤宝珠は別物です。相輪がこのような形状になる例は、
他には、私はまだ見つけることができていません。


【感想】

思ったより小ぶりな搭でしたが、細かく見ていけばなかなか興味深いところがあります。

円形の建築物を見るのは私にとって初めてのことで、その点でも印象的でした。

写真を撮る立場でいえば、墓地が搭に接近していて良いアングルが取れないことに加えて、
撮影したカットに個人名が分る墓石などが写ってしまい、公開する際には使えなかった事が
いくつかありました。

もっとも、写真が撮りにくい、というのはまったく筋違いではあります。檀家と寺は密接に
つながっていて当然ですし、死者を祀ることに寺が深くかかわっているのは事実ですから。



[ページの先頭に戻る]