考えてみると=まじめ編=原発
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【23】放射線ホルミシスについて (2015/2/8)
放射線ホルミシス
放射線ホルミシスという考え方があることを最近になって知りました。だいぶ前から議論されてきたようです。
放射線ホルミシスとはなにか、というと、低線量放射線は人間の体に良い影響をもたらす、というものです。
体に良いという低線量はどれくらいかというと、色々な説があります。短時間に被曝する急性被曝では、100mSv以上ではガンの発症率が直線的に増加する、ということがはっきりしていますので、100mSv未満の範囲でしょう。
急性被曝において、100mSv未満の領域では人体に及ぼす影響に関して、確実なデータはない、ということは知っていました。それで、現在のICRP(国際放射線防護委員会)では、100mSv以上で見られる影響を、100mSv未満の領域まで直線的に延長して適用する考え方をしています。つまり、100mSvよりずっと低い線量の放射線でも悪影響がある、という考え方です。
これと異なる考え方があって、放射線が人体に悪影響を及ぼす限界値(しきい値)がある、と主張します。そのしきい値以下なら悪影響はない、あるいは放射線ホルミシスの考え方では、かえって良い影響が現れる、というものです。
長時間被曝する慢性被曝ではこれより高い線量でも問題はない、と
【[2016/1/25]最初にこの記事をアップしたときには、ここで途切れていました。私の不注意でした。続きは以下です。】
長時間被曝する慢性被曝では、これより高い線量でも問題はない、とか、色々な議論があります。
さて、放射線に関する解説書がいろいろありますが、原発に賛成の立場の書籍ではこの放射線ホルミシスがよく取り上げられています。端的にいえば、放射線を浴びたほうが人間の体にはよい、ということですから、放射線に携わる人にとってはうれしい話題でしょう。
原発を持つ電力会社にとっても、とてもありがたい学説です。当然、電力中央研究所にとっても喜ばしい研究テーマです。
ところが、電力中央研究所では研究を取りやめています。電力中央研究所のサイトで原子力技術研究所 放射線安全研究センターからの"見解"が載せられています。
現在、当センターでは、放射線ホルミシスの研究は行っておりません
と明解です。
その理由が書かれています。
当センターでは、1990年代から2000年代前半にかけて、放射線ホルミシス効果の検証を目的とした研究を実施し、ある条件下での動物実験では、低線量の放射線によって様々なホルミシス様の効果が誘起されることを明らかにしました。しかし、現在は、主に以下の2つの理由からホルミシス効果を低線量放射線の影響として一般化し、放射線リスクの評価に取り入れることは難しいと考えています。
そのあとに、もう少し具体的に説明があります。しかし、「研究をやめた」という事実だけでもう充分に明らかです。これほど"おいしい"研究テーマをあきらめた、という事実がまさに、"放射線ホルミシスは期待できない"ことを明解に物語っているのです。研究をやめた、と言うことは、今後、研究を続けても将来において、はかばかしい結果は期待できない、と判断したわけです。
放射線に関わる専門家が書いた本では、放射線ホルミシスに対して期待を込めて書かれている場合が多いですが、かわいそうに、と同情します。一番ありがたいと考える立場の人が、すでに期待できないと結論を下しているのですから。