考えてみると=まじめ編=原発


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【15】大丈夫か電源開発(株)、報告書修正での原因の究明と再発防止策の策定 (2012/10/20)

電源開発(株)が大間原発の建設工事を再開

電源開発(株)のニュースリリース(平成24年10月1日)では、次の様に、工事再開を発表しています。

当社が建設を進めている大間原子力発電所は、平成23年3月11日の東日本大震災以降、本体の建設工事を休止しておりましたが、平成24年9月14日に国の革新的エネルギー・環境戦略が決定され、その後、建設中の原子力発電所の取り扱いが明確になったことを踏まえ、地元の皆様のご理解の下、建設工事を再開することとしたものです。

政府は、新規原発は認めないと明言していますが、着工済みのものについては、工事の再開について禁止していません。

2012年10月3日(水) の東奥日報は、次の様に伝えています。

枝野幸男経済産業相は2日の閣議後の記者会見で電源開発(Jパワー)の大間原発(大間町)の建設再開について「いったん出した許可を取り消すには(新たな)立法措置などを含め検討しないといけない」と述べ、現行の法律下で取り消しは困難との見解をあらためて示した。

大間原発は電源開発(株)にとっては最初の原発です。

ネット上で検索してみると、建設反対は、所在地の青森県よりも対岸の北海道、とくに函館市で活発です。

大間原発にもっとも近い市は、青森県むつ市と北海道函館市で、市の中心部で見れば、大間原発との距離は両市はほとんど同じ31Km。人口は、むつ市63,256人、函館277,725人と大きな差があります。

福島第一原発事故では、飯館村の一部原発位置から30Kmを超えるところに、"帰還困難区域"が出ました。少なくとも今後5年間は帰宅できない、とされる地域です。

函館市の市街地は、この飯館村の"帰還困難区域"にすっぽりと入ってしまう距離にあります。万が一の事故を考えたとき、とても安心できる話ではないでしょう。


電源開発(株)のニュースリリースとお知らせ

電源開発(株)のホームページには、"ニュースリリース"と"お知らせ"を分けています。

トップページの"ニュースリリース"というところから入ると、ニュース一覧がありますが、ここには"お知らせ"はありません。

そこではなく、TOP > 事業・サービス > 原子力発電事業とたどると、"大間原子力発電所に関するニュースリリース・お知らせなど"という見出しがあり、そこから"一覧" をたどると、"ニュースリリース"と"お知らせ"を時系列に並べたものが出てきます。

広報室に尋ねると、"ニュースリリース"はプレス発表、"お知らせ"はそれ以外、とのことでした。

してみると、企業全体としては、"ニュースリリース"があればよいが、原子力の世界ではいろいろ難しいこともあるので、細かな情報も公開していくべき、ということで"お知らせ"として公開しているというところでしょうか。


「緊急安全対策等の報告書における誤りの有無の再調査結果等について」

ここからが本題です。

2011年11月18日付のニュースリリースに、「緊急安全対策等の報告書における誤りの有無の再調査結果等について」と言うものがあるのが目にはいりました。

原子力安全・保安院に提出した報告書に誤りがあったのですが、事が大きくなったのは、原子力安全・保安院から、「以前に出した報告書に誤りがないか調査せよ」という指示に対して、いったんは「誤りなし」と報告しましたが、その後一カ月ほどして誤りが見つかってしまったからです。

おかげで、最初の報告時に誤りを発見できなかった「原因」と「再発防止策」を報告しなければいけなくなりました。

「以前に出した報告書に誤りがないか調査せよ」などという指示が出されること自体おかしなことです。これは、いついつまでに調査して報告せよ、という指示が電力会社、発電会社に出されたとき、その期限までに報告書が出たのですが、そのあとで、実は報告書に誤りがあり、このように修正します、という連絡が続出したのです。

これでは安全・保安院も「他は大丈夫なのか」、と不安になるのも当然で、「報告書に誤りがないか再調査せよ」という上記の指示が出たわけです。

再度チェックするのはとても大変

でも、再度チェックするのはとても大変ですよね。

再チェックするのは恐らく、最初に報告書を作成した人とは別の人でしょう。同じ人がチェックすると、間違いに気付かない事が多いですから。

新しい担当者にとっては、なんとも意気が上がらない仕事ですね。間違いが見つからなかった場合、本当にないのだろうかと、自分でも不安が残るだろうし、他の人も本当に大丈夫かな、と思うでしょう。

間違いが見つかったときには、それではそれで、ほかにも間違いがあるのではないか、と心配になります。

最初の担当者にとっては、新しく報告書を作るのですから、やる気も出るでしょうし、作業が終わればそれなりに達成感を味わえます(その時には)。

再チェックの担当者にとっては、作業が終わっても、疲れた、のひとことでしょうね。同情します。

再チェックして誤りが見つからなかった、でもそのあとで誤りが見つかった

再チェックして誤りが見つからなかったので、そのように報告しました。

そのあとで、あろうことか、誤りが見つかってしまいました。どれほどショックだったことか。

誤りがいつ、どのような経緯で見つかったのかは分りません。誤りがあった、という修正の報告は一ヶ月後です。でも、誤りが見つかったとき、担当者は、そのほかに誤りがないか、必死でチェックしたことでしょう。再々チェックです。

このころは、福島第一原発事故のあおりで全原発の活動がストップしていたときで、大間原発は建設が中断していました。こういう報告書でトラブルが出れば、工事の再開にはマイナス材料です。担当グループのピリピリした雰囲気を想像してしまいました。

私も、現役のころは、そのようなピリピリした時期を何度も経験しています。


次に、報告書の受取り側の安全保安院の記録を見てみると、2011/11/18付で、次のような項目がありました(現在、この情報は、安全保安院の組織を吸収した原子力規制委員会のサイトの中にあります)。

 当院は、電源開発の報告書内容の確認を進めていましたが、電源開発より、新たな誤りが発見されたとの報告がありました。このため、調査において誤りを発見できなかった原因究明及びその再発防止策の策定を行うとともに、改めて、これを踏まえた調査体制及び方法による徹底した調査等を行うよう指示(以下「再調査指示」という。)しました。(10月26日公表済み)
 本日(11月18日)、電源開発より再調査指示に基づく再調査等の報告書について、以下の通り、受理しました。
当院は、引き続き、電源開発が実施した再調査内容や再調査結果に基づく原因と再発防止策など、当該報告書の内容を厳格に確認していきます。
 
電源開発株式会社 緊急安全対策等の報告書における誤りの有無の再調査(概要)


修正報告書における「問題の原因分析」と「再発防止策」の内容

原因として4項目が挙げられています。

① 当社担当部署で最新の規格基準類の適用に関する認識が不十分であった。
② メーカへの作業指示に際して、検討条件や要求事項の提示が不十分であった。
③ 報告書の作成・確認に係る、担当部署の責任体制や役割分担が十分に明確にされていなかった。
④ 報告書の作成・確認時に用いるチェックリストの確認事項が不十分であった。

再発防止策も4項目でした。

① 再調査を行う際の要求事項や留意点を明確にして、関係者に周知する。
② 作業指示の際には、検討条件や要求事項を明確にし、文書で提示する。
③ 再調査では、担当部署の責任体制や役割分担を明確にする。
④ 官庁からの指示内容を踏まえて、再調査に適した項目を、チェックリストに追加する。

これを読んで、私はえええっ、となってしまいました。こんなのでいいの、という気持ちです。

私は自動車部品の設計・製造部門で働いたことがあります。その経験では、問題が起こったとき、原因分析と再発防止策の決定という作業が必ず付いて回りますが、こんなに簡単な内容ではとても許してもらえません。

もし私がこの程度の内容の資料を作って上司に承認をもらおうとしたなら、「何だこれは、やる気か無いんだっだらもう家にかえっていろ」などと言って怒鳴られるでしょう。

もし私の部下がこの程度の内容の資料を作って私に承認をもらいにきたら、「このレベルから教育しないなんてこれは大変だ」と頭を抱えるでしょう。これが許されるのは、せいぜい入社2, 3年目までの新人です。

あまり腹が立つ内容なので細かな事は言いたくないのですが、たとえば原因と再発防止策のそれぞれ最初の1項目についていえばこうなります。まず原因の①です。

・「当社担当部署で最新の規格基準類の適用に関する認識が不十分だった」とあるが、これはとんでもない重大事である。原発施設の建設を推進する人たちが、どの規格基準を適用するのかという点で認識不十分だったといっている。もしそうであるなら、原発施設の建設を担当する資格がない。
・「なぜ認識が不十分」だったのか。会社の社員教育・訓練の態勢が不十分なのか。もしかして、電源開発(株)にとって初めて建設する原発で、社内に十分な知識のある専門家が足りないのではないか。
・さらに、「当社担当部署で・・・・不十分」という。「ある一人の担当者が認識不十分」なのでなく、「担当部署の全員が認識不十分」なのだ。もし一人でもきちんと認識している人がいれば、その人が間違いを指摘して、「担当部署で認識不十分」という状態にはならなかったはずである。

次に、再発防止策の①です。

・まず、誰が周知するのかが書かれていない
・「要求事項や留意点」というあいまいな書き方はあり得ない。少なくとも「要求事項および留意点」である
・「明確にして」などというあいまいな書き方はだめ。「要求事項および留意点」を検討するグループはだれなのか、その内容を審議するための仕掛けをどう作るのか、そして「文書にまとめる」、という事を言わなくてはならない
・「関係者」とはだれなのか。再調査の担当者の他に誰かを考えているのだろう。それはたとえば、再調査の結果をチェックする人であろう。それは単に上司なのか、再調査を委託したグループなのか、あるいは検査部門の人なのか。そういうことがまるで書かれていない。

この報告書を読んだなら、この電源開発(株)という企業は、原発施設を建設する資格がない、と判断せざるを得ません。担当部署に対して、原発に詳しい人を外部から補強しなければならないのです。今のまま進んでは恐ろしくて仕方がありません。

 

そのほかにも疑問点がある

その他にもこの報告書には不可思議な事があります。

まずタイトルが「概要」とはどうしたことでしょうか。

私は、最初にこれを見たとき、もしかして、正式な、つまり詳細な内容を国に提出しているが、それでは一般の人が理解するのは難しいし時間もかかるので、要点を分りやすくまとめて自社のサイトに置いた、という事ではないかと思いました。それで、安全保安院の「お知らせ」のサイトなら正式な報告書の内容を見ることができるのではないか、と思って探したのです。しかし、そこでも、安全保安院が11月18日に受け取ったと記録された報告書には「概要」の言葉がありました。

「概要」というなら、「詳細版」があるのが当然と思うのです。

「詳細版」は一般には分りにくいから公開しない、ということだとしたら、それはおかしなことです。不利になることを隠す、という態度でしかありません。ストレステストの報告書などは、数百ページに上る詳細な分析結果が公開されています。

「詳細版」は遅れて提出する、というのも変です。詳細版の内容が決まらなければ概要は書けません。先発として提出するなら、「速報版」というような表現でしょう。

また、その資料のタイトルですが、正確には、

「電源開発株式会社 緊急安全対策等の報告書における
誤りの有無の再調査結果等について(概要)」

です。

不思議なことに、電源開発(株)のサイトでは、そのタイトルが

「緊急安全対策等の報告書における誤りの有無の再調査結果等について(概要)」

となっています。先頭に「電源開発株式会社」という企業名はなく、また改行なしの1行なのです。

また、安全保安院の文書では、「1. はじめに」のところで、この報告書が提出された経緯について、17行にわたって説明されています。一方、電源開発(株)のサイトでは、「1. はじめに」のところが、たった4行の簡単な説明に終わっています。

そのほかの部分は、印刷して比較したところ、文章は改行の仕方に至るまで同一でした。ただし、最後のところに「以上」とありますが、電源開発(株)の文書では、その前に1行の空白行があるのに対して、安全保安院の文書では、空白行はありません。

どうしてこのようなことになっているのでしょうか。

安全保安院が報告書を書き変えたのでしょうか。あるいは、電源開発(株)が国に提出する報告書と自サイトにのせる報告書を違うものにしたのでしょうか。

安全保安院では、「本日(11月18日)、電源開発より再調査指示に基づく再調査等の報告書について、以下の通り、受理しました」という表現であり、電源開発(株)のサイトでは、「本日、国に再提出しました。(添付資料2参照)」という表現なので、提出した報告書、受理した報告書、という対応関係になっています。

何かおかしいです。



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