日本語のあれこれ日記【5】

否定表現3題 =勝るとも劣らない・嫌いじゃない・背は高からず低からず=

[2014/4/16]


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あくまでも私が感じている"語感"です。

勝るとも劣らない

「勝るとも劣らない」というとき、この言葉通りに「勝るか、あるいは同等」という場合に使うことはまずない、といっていいと思います。

「勝る」ならはっきり「勝っている」、「追い越した」、「リードしている」などというはずです。「同等」なら「肩を並べている」、「追いついた」などというはずです。そう言えない場合に「勝るとも劣らない」というのです。

はっきり言うなら、「劣るとも勝らない」ときに「勝るとも劣らない」というのです。

「大差ではないが確実に劣っている」、でも「許容誤差の範囲で同等といえるところまで接近してきた」、という場合です。"大まけにまけて同等といえるでしょ"、という甘えです。

嫌いじゃない

「嫌いじゃない」はもう少し屈折しています。

「嫌いじゃない」のだから、「好きでも嫌いでもない、普通くらい」なのか、あるいは「少しは好きという程度」なのか、というと、全くそういうことではありません。「嫌いじゃない」は「大好き」という意味です。

「あなた、お酒はいかがですか」、「お酒ですか、まあ嫌いじゃありませんね」。こういう人はまず間違いなく大酒のみです。

十代目金原亭馬生さんの落語「親子酒」のなかに次のような一節があります。

「・・・・人と人の付き合いで酒はみごとでございますな。えー、あたくしなんぞも嫌いじゃございませんからよく飲みに行く・・・・」

「酒はみごとである」などという感想は本当の酒好きでないと出ません。

こういう屈折した表現は他にもあります。飲み会などの二次会かなにかでカラオケ店に行き、さあ歌うか、というときに「うまい人が歌うと歌いにくいですから、先に歌わせてください」などという人はまず例外なく「うまい」人です。歌い終わって「なんだ、うまいじゃないか」、といわれて「してやったり」という顔をする。言葉は素直に聞いてはいけませんね。

背は高からず低からず

これは時には、文字通りに「背は特に高いわけでも低いわけでもない、普通くらい」という意味で使うことがあるかもしれませんが、私が聞いた範囲では、もっぱら「背が低い」という場合に使われています。

多くの場合「背が低い」とは言いにくいので、まず「(確かに)高いというわけはない」といっておいて、そのあとで「(でも)低いというほどではない」と言い訳を付け加えるのです。これが高じると「背は高からず高からず」などと茶化したような言い方になります。

高ければ「高い」というし、普通なら「普通」とか「中肉中背(もっともこれは痩せても太ってもいない場合にしか使えませんが」とか言うので、そう言えないときの表現です。否定表現を二つ並べている時点でなにか怪しいです。素直な表現ではありません。でも"なんとなくぼかしたうまい"表現とも言えます。



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