日本語のあれこれ日記【3】

「え」列の長音の発音

[2013/12/7]


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これも昔から気になっていた。

「丁寧」の振り仮名は「ていねい」であるが、読みは「テーネー」である。これは問題ない。

「え」列の長音には「い」をそえる、という規則になっている事は理解している。

内閣告示の「現代仮名遣い」では、「『え』を添える」、を本義とし、「ただし次の様な場合は『い』を添える」という書き方で、でも実際は「い」を添える例が圧倒的で、「え」を添える例は絶対的に少数派になっているのは、まあ、現代かなづかいが妥協の産物という事を知っているので、ここでは深入りしない。

森昌子(こちらは現役の歌手なので"さん"付とはしない)のデビュー曲に「先生」という曲がある。

歌詞の一番、二番の最後はともに「せんせい、せんせい、それはせんせい」である。

それでは森昌子はどのように歌っているかというと、「センセィ、センセィ、ソレワセンセイー」である。

メロディーが、最後の音を長く伸ばすようになっているので最後の部分の歌い方としては、「センセエー」か、「センセイー」かのどちらかしかない。

「セエー」の「セ」と「エ」の音程は違っているので、「センセー」にはならない。

普通は「センセー」だろうが、不思議なことに、この歌い方では「センセィ」、「センセイ」というのが違和感がないのである。逆に、「センセェ」、「センセー」の方が、この場面では違和感がある。


どうしてなのだろうか。


「せんせい」という文字で思いだすのは、高校野球の「宣誓」である。これは例外なく、「センセー」である。「センセー われわれ選手一同はスポーツマンシップにのっとり・・・・」などとやる。


「先生」に対して、「センセー」、「センセイ」は何が違うのか。

極端な言い方をすると、「センセー」の方は「慣れ慣れしい」、「センセイ」は「堅苦しい」感じがする。

言いかえれば、言い方が「親しみのある」のか、「丁寧な」のか、という違いである。

この曲のイメージは、「慕う気持ちを胸の奥に閉じ込めた」感情だから、「センセイ」の方がしっくりくるのではないだろうか。


外来語ではどうか。

「先生」は漢語であり、本来は外来語であるが、現在では外来語という意識はほとんどなくなっているので、ここでは漢語は除いて考える。

英語には「え」列の長音は一般的にはないと言えるだろう。

"bay"を使った横浜ベイスターズ、ベイFMなど比較的新しい言葉で耳にするのはほとんど「エイ」という発音である。

しかし、K点越え(スキージャンプの用語)、アルファベットの"A"などは「エー」の方が多い。

だから、「エィ」と発音すると、それだけで本当の英語らしく聞こえたりする。

「maker」、「make-up」に対して、「メーカー」、「メークアップ」と発音するよりは「メイカー」、「メイクアップ」といった方が本物らしい。


「page」は通常は「ページ」と発音されることがほとんどであろう。「10ページを開いてください」、とか、「試験の範囲は20ページから40ページです」、などというときは「ページ」である。

山口百恵さんの持ち歌に「おだやかな構図」という曲がある。

このシリーズの第1回目(日本語のあれこれ日記 【1】)で取り上げている。

作詞は来生えつこ、 作曲は来生たかお である。

その歌詞の中に、「頁をめくる音」というフレーズがある。振り仮名としては「ページをめくるおと」である。

これを百恵さんは「ペイジオ」と歌っている。

これに対し、はっきりと「ペエジオ」と歌っているものを最近見つけた。

作曲者の来生たかおが歌っている動画である。

作詞の来生えつこと作曲の来生たかおは姉弟であるから、二人の間で言葉のイメージは共通だろう。

だから、作詞家・作曲家は「ペエジ」という発音を意図していたのではないだろうか。少なくとも、楽曲の提供者として"来生たかお"の方がオリジナルである。

そう考えると、百恵さんサイドはどうして「ペイジ」を選んだのだろうか。

作曲者が曲を提供するとき、歌手に対して直接に指導する場合もあるが、自ら歌ったデモテープ(今ならCDか)を渡す場合もあるように聞いている。

デモテープを受け取ったが、ここだけは変えた、ということだろうか。

このようなことを考えていたら、"page"を「ページ」ではなく、「ペイジ」と発音することが今後増えてくる予感がしてきた。その方が"英語らしく"て"カッコイイ"からである。


ここまで書いてきて、ネットを探して見ると、とても参考になる記事があった。

教育出版という教科書などの出版社のサイトで、「先生」は「せんせい」か「せんせえ」か、という質問に対する解答である。

ここには、

連母音エイをエーのように長母音に発音するのが普通、特にていねいに発音する時は,エイコ°・ケイサツのようにエイにもなる

とある。(“コ°”は鼻濁音)

さらに、「エイ」という発音が優勢である地域があることを紹介している。

日常生活で,エイが優勢な地方は,九州をはじめ四国・紀伊半島などの過半や伊豆の利島などである。しかし,今日では,これらの地方でも,しだいにエイは退化してエーに変わりつつある


日本語では、「エー」、「エイ」という長母音の発音が「エー」に収束してきているのに対し、外来語では「エー」という発音は古臭いというイメージになり、「エイ」という発音に移行している、というのは、何とも面白い話である。


【追記】 2014/2/11

トヨタの車に"スペイド"という車種があることを知った。トランプのスペードのマークを使っているから、いわゆる"スペード"なのだろう。なぜ"スペイド"という表記にしたのかについてネットで検索したのだがよくわからなかった。いわゆる"スペード"を"スペイド"と表記している例はネットで検索すると本当にまれである。英語でいえば"spade"で、英語としての発音を注意して聞けばスペード"よりは"スペイド"なのだが、なにか"スペ井戸"の様にも聞こえる。どうせなら、"スペィド"の方がいいか。もっとも"d"の音を"ド"という限りはどうでもいいとも思う。



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